あなどれない!凍傷の評価と処置

いやー、今日のスキーは寒かったですね、足の指先がしばらく痺れて、感覚ありませんでした。んっ、こんな経験みなさんありませんか?実は、これも凍傷の始まりのS/Sxなんです。こんな状態をどうマネジメントするか、実はとても難しい判断となる分岐点があるのです。

実は凍傷には、苦い思い出があります。WEAJ設立に向け、日本にWEA指導者を作るために行った2013年3月、WEAバージニアコース。3月のバージニア州内のアパラチア山脈は、積雪はないまでも、まだまだ氷点下。ある夜に、渡渉時に濡れてしまった登山靴が冷たいからと言って、お湯をかけて温めた日本人参加者いました。当然その後、登山靴はカッチカチに氷り、もう履くことはできません。また、そもそもそれ以外の日本人参加者の登山靴が、軽登山靴で、氷点下に耐えうるものではありませんでした。結果として、リードインストラクターと相談し、本来なら5日間の遠征を、3日目にトレイルアウトするという、日本人参加者代表としては「ほんと申し訳ないです」という経験がありました。確かにあのまま遠征を続けていたら次の夜は越せなかったかもしれません。

凍傷とは、その名の通り、組織が凍ってしまったもので、その手前の血流不足による障害をしもやけ、別名凍瘡(とうそう)と言います。凍傷はさらに、皮膚のみのダメージの表層の凍傷と、ダメージが皮下に及ぶ深層の凍傷に分類されます。深層の凍傷の処置を誤るとそれこそ、切断というようなとてもこわい野外の問題です。

メカニズム

特別に有料の動画コンテンツで、メカニズを理解しましょう(ほんとは書くのが面倒くさいだけ)。

評価と処置

表層の凍傷のS/SxとTxは以下の通り。

S/Sx

  • 患部の麻痺や運動機能の低下。
  • 患部はパン生地のようになる。
  • 加温前に患部は白くワックスがかったようになる。加温後は、赤くなるが、水疱はできない。

Tx

  • 運動や末梢灌流を促進し、「自発的」に加温する。
  • 皮膚と皮膚で温める。
  • 24時間水疱ができなかったら、患部を使ってよい。
  • もし水疱ができたら、凍傷として処置をする。

ポイントは、「自発的に温める」ということで、急激な加温(例えばストーブ、湯たんぽなど)や、強くさすったりすると、凍っている細胞を破壊してしまうということです。上述したWEAコースでは、アイキャッチの写真のようにパートナーのお腹の中にそれぞれの足先を入れて温め合いました。野外に一緒に行くメンバーというのは、それも受け入れられる仲間でなければならない、いや、野外ではそれを受け入れざるを得ないということですよね。

次は、深層の凍傷での難しい判断です。

S/Sx

  • 感覚と運動の完全な消失。
  • 患部は木のようになる。
  • 皮膚は、白、灰色、真っ青になり、皮膚組織の中に結晶が見えることもある。
  • 加温後は、感覚、色、温度が戻り、3時間以内に腫れる。透明な水疱がすぐにできるのは、よい兆候である。
  • 血豆が遅れできたり、組織が黒くなるのは、よくない兆候である。

Tx

  • 処置まで24時間以内に行ける場合、凍傷の足で歩いて行く。
  • 処置まで24時間以上かかる場合、フィールドでの加温を考える。その場合、避難中に使用してはならず、再凍結は避けなければならない。再凍結は回復不可能となる。
  • フィールドでの加温は、お湯(40-42ºC)に30-40分患部を浸す。温度が一定になるようにお湯をつぎ足す。
  • ハイリスクの創として処置する。指と指の間にコットンを入れる。

深層の場合、再加温で処置して、万が一再凍結させてしまうともう回復不可能=切断ということです。つまり、低温状況は、そうすぐには解決できるものではないので、24時間以内に避難できる場合は、凍傷でも歩かせて(運動は自発的加温や抹消潅流の促進になります)、然るべき機関で処置する方が、組織の再生率を高めます。凍傷を訴えている仲間を処置をせずにそのまま歩かせるって(おそらくそういう時っておそらく夜)、なかなかできないですよね。でも、テントで一度処置をして、翌日も低温状況で再凍結していますとジ・エンドなのです。

そうならないために、以下の予防を心がけましょう。

  • 防寒、防風、防水。
  • 服装の締めつけ(きつい靴、きつい袖口など)を避ける。
  • 循環を促進し、血管拡張を促す食材(生姜、唐辛子、ハーブなど)をとる。
  • 四肢のしびれや、感覚の麻痺を観察し、早めに改善する。
  • 環境が悪化する場合、ルートや計画の変更を考える。
  • アルコールを控える。凍傷の1/3以上がアルコールが原因である。
  • タバコを控える。ニコチンは血管収縮させる。
  • 循環器系障害(糖尿、レイノー症)がある人は凍傷になりやすい。

低体温も含め、凍傷なの低温障害は、初期の評価と処置を誤ると、ドミノ倒しに悪化していきます。また、重症化した時の判断もとても難しいので、早め早めに手を打つようにしたいですね。その前に、タバコをやめる、雪山でお酒は控える、抹消の毛細血管を鍛えるために、規則正しい生活、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、雪山に強い体を維持しましょう。


より詳しくファーストエイドを理解するためにはデジタルハンドブックを参照してくだい。また、それらの知識を正しく活用するためにはWFA/WFRコースに参加してトレーニングを受ける必要があります。

楽しいアウトドアは、正しい準備から。