2020年6月1日、東京都の新型コロナウィルス感染予防の緩和レベルがステップ2に移行し、各種スポーツ施設も営業再開となります。
プロ野球、Jリーグなどでも開幕が決まり、徐々にアフターコロナの社会の姿が見えてきました。
野外では、多くの団体が、今年の夏のキャンプ事業を中止する中、私が関わる小さな団体では、キャンプ事業の開催を決定しました。
また、他社のキャンプ場の再開に向け、そのガイドライン作りの相談も増えています。
今回は、そんな中、事業再開に向け、改めて感じたことをお話ししますね。
ちまたには、商品の性能をPRするために、「安全・安心」という言葉があふれています。
野外の事業者からも、キャンプの安全性のPRや、保護者への説明で「安心・安全」という言葉をよく耳にします。
もともと、ハイリスクな活動を選択して、ハイリターンな教育効果を獲得するスキームの私の関わる事業では、「この指導者たちはいつ安心しているんだろう」と不思議に思います。
「安心は、指導者ではなくて参加者の気持ちの問題だ」と反論が出そうですが、私の考えは「リスクに対して警戒していない参加者を何十人も抱えて、指導者は大変だろうな」っと思ってしまします。
私の野外の哲学は、参加者に「安心」を学ばせたいのではなく、「リスクへの警戒と統制」を学ばせたいのです。
だから、リーダーシップや問題解決力、コミュケーション力が養えるのです。問題がないところに、リーダーシップは不要です。
安全管理の4原理
「安全・安心」のうち「安全」はとても大切です。一般的に安全の管理(=リスクマネジメント)は4つ原理で考えます(リスク用語に関しては、また別のブログで詳しくご紹介しますね)。
- リスクの排除
- リスクの分散
- リスクの最小化
- リスクの保有
リスクの排除とは、リスクを高めるハザード(危険因子)を取り除くということです。野外で言えば、危ないことをしないとか、天候が崩れてきたから、下山するということです。
リスクの分散とは、自分以外とリスクを共有することで、一人一人のリスクを小さくするということです。野外で言えば、上述した、参加者もしっかりリスクを理解して、参加者なりのリスクマネジメントを行うということです。ただし、感染拡大防止に関しては「集中」です。この分散と集中の概念が共存するはLNT原則2と一緒ですね。
リスクの最小化とは、アクシデントの発生確率を下げたり、それによるダメージをより少なくするということです。前者は落雷時に金属を外したり、後者はヘルメットを被って頭部外傷のダメージを少なくするということです。
最後の保有とは、リスクをそのままの状態で受け入れ、アクシデントが起こらないようにコントロールする、もし危機状態(ペリル)になっても、それをコントロールしてリカバリーすることです。野外に出ること自体、リスクの保有と考えることができますし、この原理が野外の教材とも言えます。
これは全て「安全」のためなので、どんどんやった方が良いです。
だから野外をやる人は、リスクが高ければ高いほど楽しいのです。
なぜならば、いっぱい色々なことを考えて、色々な対策を立てて、それを実践して、評価して。
次に行く時は、前回の結果を修正して、どんどん成長する自分を感じて。
一方、「安心」ってどういう状態でしょうか?心配のない状態?緊張のない状態?
新型コロナウィルス対策を考えながら熟思うのですが、「安心」なんてできません。
これは、新型コロナウィルスだからではなく、自然自体、安心できる対象ではないのです。
多分、クライエントの「安心」ではなく、プロバイダーが「安心したい」、「事故ゼロでありたい」という願いなのではないでしょうか?
リスクマネジメントのプロセス
野外のリスクマネジメントのプロセスは以下の通りです(特に野外とは限りませんが)。
1)リスクの同定:リスクがあることを認知します。
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2)リスクの評価:ハザードの特性、参加者・指導者のスキル、セーフティーファクターの評価、ペリルの発生頻度、ダメージの大きさを見積もります。
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3)安全管理の計画:リスクの回避、分散、最小化、保有の戦略を立てます。
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4)安全管理の実行:計画に基づきリスクのコントロール、ペリルからの離脱を行います。
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5)安全の評価:安全を評価し、当該リスクに対する安全管理の終了を決定します。まだリスクがあれば、2)に戻ります。
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6)解決:当該リスクがなくなった状態。
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7)リスクの監視:新たなリスクに対する観察・警戒
このプロセスに「安心」のステップはありません。
野外で必要なリスクマネジメントの行動指針は、「安全・警戒」です。
みなさん、新型コロナウィルス以降、日々の生活の中で、めちゃくちゃ警戒して生活していますよね。
今世の中のこの状況で「安心」している人いますか?ウィルスも自然も同じです。
いやウィルスは自然の一部です。「安心」よりも「警戒」が正しい心構えです。
「安心」のために、街よりも感染リスクは理論的に低い野外に行く人もいますが、野外ではそれ以外のリスクが複合し、より高度なリスクマネジメントが必要になります。
野外で、新型コロナウィルスに感染しなくても、「安心」しっぱなしでは、もっとダメージの大きなアクシデントを起こし、結局はそれが、地域の医療機関に負荷をかけることになります。
とは言え、私も野外でとても「安心」という感情を抱く時があります。
それは、優れたスタッフ、優れたキャンパー、成長した野外指導者に囲まれて、それぞれが自立して適切にリスクマネジメントしているときに、確かに「安心」と感じる時もあります。
ただ、「全てうまくいっている、安心できるときこそ、何かが起こる」というのも師匠から頂いた私の大切な野外の哲学です。
今年の夏、優れたキャンパー、優れたスタッフと共に、どこまで「安心」を感じられるか、今から楽しみです。
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