2020月7月、第2波真っ只中で少し気が早いかもしれませんが、コロナ終息後の野外について少し考えてみました。野外教育者はアフターコロナに向け、何に備え、どんな力が問われるのでしょうか?
目次
ウィルスと人類
コロナにより進化するリモート&VRの世界
アフターコロナの野外教育
ウィルスと人類
人類の歴史の中で、ウィルスや細菌のパンデミックによって、社会システム、時には民族すらが大きく入れ変わってきたなんて話は、コロナ渦において、メディアを通して耳にした話ではないでしょうか。ペストによるヨーロッパ中世の終焉とルネサンスの幕開けや、ヨーロッパ人がもたらした天然痘によるインカ滅亡説などがこれにあたります。(参考:山本太郎「感染と文明」)
さらに、人間のDNAのうち、人間としての形態の遺伝情報はごくわずかで、約半分が原生生物から進化の過程でウィルスに感染し、そのゲノム情報を引き継いできたものなんですって。えーって。さらには、細胞を単位として、複製を作ることができる生物自体が、非生物であるが遺伝情報を持つウィルスが膜を持ち進化?したものとも言われています。(参考:武村政春「生物はウィルスが進化させた」)
そう考えると、生物である人類にとってパンデミックは避けられないし、仮にテクノロジーでウィルスをコントロールできても、その後の人類は(人でなくなっているかもしれませんが)、自然界に存在するウィルスの情報を持たないDNAを引き継いでいくので、いつか淘汰されるのでしょうね。
そんなことも考えながら、でも目の前の大切な人は守りたいし、ウィルスに強い社会を作っていきたいと思うのは、自我を持った人間であれば当たり前のことでしょう。
コロナにより進化するリモート&VRの世界
「喉もと過ぎれば熱さ忘れる」というのはヒューマンネイチャー(人の常)かと思いますが、「忘れられない」変革も起きていることも事実です。
例えば、コロナにより対面式の会議はほとんどなくなりました。これまでの、高い旅費をかけて東京に集まり、会議では何も発言せずに、飲み会になると元気になるという会議に戻ることはもうないでしょう。オンライン会議の方が、参加人数も多く、会議費が安く、高い生産性があることが分かったからです。対面会議や飲み会を否定しているのではなく、それらのメリットとオンラインとのバランスになっていくのだと思います。
また、テレワークという技術を経験し、とうとうオフィスを放棄した会社もありました。オフィスの賃貸料、社員の通勤費と時間を考えると、これらの会社はコロナ後に、改めてコロナ前と同じ規模のオフィスを構え直すとは考えにくいですよね。きっとテレワークによる新たな弊害がこれから社会を悩ますことになると思いますが、一方で大都市一極集中の改善も期待されます。なんでも50:50です。
テクノロジーのもうちょっと未来も考えみましょう。コロナによりリモートやVRのニーズは間違いなく高まりました。この先技術革新がどこまで進むかわかりませんが、子供のころに使っていた黒電話からスマホまでのたった30年の進化を考えると、私が生きている間にも、まだまだまだ見ぬ世界を経験できそうです。
例えば、医療では、遠隔手術や、執刀医のゴーグルにつけたカメラでオペのストリーミング配信なども既に行われているようです。これにより、遠方のゴッドハンドにオペしてもらうことも可能になるし、世界中の医師がその技術をオンタイムで目の当たりにすることもできるわけです。またVRによるオペのトレーニングシステムも開発されているそうです。VRを経験した人は、あんなクオリティの低い映像ではリアリティとは程遠いと思うかもしれませんが、VRが実用化されてまだ数年です。ここでは未来の話をしましょう。(参考:日本VR医学会)
最近、映画館で4Dなんてのもありますが、3Dに加えて、雨、風、温度、振動、匂いなど、映画の環境を再現し、臨場感を持たせる技術のようですが、今ではとうとう、バーチャルの「触覚」まで再現できるそうです。つまり、ないものを「触っている感覚」と、逆にそのディバイスをつけることによる触られていないのに「触られた感覚」です。えーーーまじでって感じですが、例えば義手などへの転用に可能性のある技術です。つまり、この先には触っているという感覚だけでなく、痛みや熱さなども再現できるようになるのでしょうね。(参考:検索「触覚」&「VR」)
アフターコロナの野外教育
さてさて、話を野外で考えてみますと、野外の効果を五感を通じた体験で説明するロジックがありますが、この先VRの技術が進むと、何もリスクを冒して野外に行く必要はなくなりますね。今まで、実物に触れるためには実物があるところまで行かないと触れられなかったので、野外にしかないものであれば野外に出るというリスクテイクが必要でしたが、これからはそのリスクを冒す必要はなくなります。「仲間と苦労して登った山で見たご来光や雲海はVRには変えられない」という人もいると思いますし、自分もそう思いたいのですが、登山と同等の身体的負荷を再現した4Dに、仲間とリモート参加し、世界一美しいご来光や雲海をVRで見せたのとどう違うのか?今のテクノロイジーではまだまだ圧倒的な差を感じますが、今後その精度が上がっていったら本当に違うのか?興味があるところですね。
小集団によるグループワークもキャンプの効果要因の一つです。映画「アバター」の世界が現実化したときに、グループワークをするために野外に行くリスクをとる必要が残るでしょうか?しかも求められるグループ構成はダイバーシティです。価値観を超え、地域を超え、国境を超え、今一番交わってはいけない人たちが交わることにより高い効果があるのです。コロナが終息すれば大丈夫と思っているのは、単一民族で(アイヌの方今は説明上このような言い方をさせてください)、美学的自然認識に偏る日本人の特性です。他の国では当たり前のように異民族が一つの国家を形成しています。また、感染はコロナウィルス だけではなく、野外、自然、地球上は常に、ウィルス、細菌、原虫、昆虫、動物など、感染の元となり、人から人へ感染する病気で溢れています。アバターが現実化すれば、移動費もかけず、感染リスクを冒さずに、野外の効果を高めるための最適なダイバーシティー集団を、バーチャルで実現できます。
つまり、我々が野外の効果のために計画し、提供してきたものは、ほとんどがテクノロジーで提供できる未来がいつか来るのではないでしょうか。そのときが野外教育の淘汰の時なのでしょうか。
全てのロジックをテクノロジーに譲った後に残るもの、それは理不尽や不合理など、到底論理的には説明のつかないものでしょう。商品としてはあってはならない誤作動や不均衡ですが、これこそが野外に残る商品価値ではないでしょうか。サービスの主体が人であればクレーム対象ですが、自然であればクレームを言っても仕方がありません。
不均衡が必要であれば、それらを引き起こすようなランダム係数なり、ゆらぎ係数なりをバーチャルのプログラムに入ればいいかもしれません。参加者がうまく統制できなければ、身体的、心理的に不快な刺激を与えることも楽々できるでしょう。しかし、VRは制御できなくなったらスイッチオフにすればいいですが、野外では電源を抜くことはできません。基本的には非統制状態を受け入れるしかないです。
ただ、野外でも電源オフができない訳ではありません。理不尽は誰でも受け入れたくありませんし、人が提供する教育やビジネスで受け入れるべきではありません。現実的な野外の現場でも、自己成長という利益や、参加費という経済的損失を犠牲にしてでも、目の前の理不尽から離脱する参加者もいます。また、指導者もそれを受け入れざるを得ない時もありますし、参加同意書にはたいていそのような文言が書かれています。しかし、参加者も指導者も決して受け入れることのできない究極の犠牲であり、理不尽の究極の結果があります。それは死です。その犠牲から逃れるために、ありとあらゆる理不尽を受け入れ、全力で争う力こそ、生への欲求です。
逃れられない不条理と、生への欲求こそ、自然そのものであり、野外に残される最後の要素です。
野外教育が、教育であり、商品である以上、これまでも、これからも、参加者の安全を確保し、効果を保証するものであり続けなければなりません。そのためには、不条理を提供できる環境とプログラム、それらをコントロールできる指導者が、野外教育のエッセンスとして残っていくのでしょう。未来の野外で、家でもできること、リモートでもできること、バーチャルでもできることは、近い未来はまだまだ通用すると思いますが、遠い未来は、野外に変わり、電源のスイッチを入れて体験する時代がそこまできています。
遠い未来は、もしかしたら黒電話からスマホに変わった、たった30年先かもしれません。テクノロジーに人はすぐに適応できますが、人づくりそう簡単にはいきません。今育てた指導者が、あと何十年も、多少の修正はあるものの、野外という仕事を志た時の体験と、その後受けた教育の枠で指導を続けていきます。その変化のスピードは、テクノロジーの変化に比べ、とてつもなく時間がかかり、テクノロジーが変わって、これまでの野外が不要となったときには、すぐに変われるものではありません。
遠い?未来に向けて、今野外教育がどこを目指すべきなのか、どんな指導者を育てなければいけないのか、コロナのおかげで見えてきた未来があるかもしれません。
多少の論の飛躍もあるかもしれませんが、ぼんやり考えていることからは大きく外れていないし、これかも大きく変わることはありません。ネットへの書き込みでは議論し尽くせませんので、皆さんと真剣に語り合う機会を作りたいですね。
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