LNTにバックカントリーを

LNTJいよいよ立ち上がりましたね。2013年にWEAJを設立した際に、LNTはこれからの日本の野外に絶対必要になると確信し、コツコツを指導者養成をやってきた成果が、実を結びました。

この一年、LNTJのプロモーションのために、環境保護のイベントに参加して、一般市民の方に、LNTを紹介したり、キャンプ場の関係者の方を巻き込んで、LNTトレーナーコースを開催したりしてきました。みなさん、LNTに共感していただき、今後のLNTの広がりの可能性を予感させるものでした。

LNTセンターの報告でも、アウトドアレクリエーション参加者の80%は、フロントカントリーでアウトドアを楽しんでおり、LNTの普及のためには、バックカントリーのLNTよりも、フロントカントリーのLNTの方が重要であると述べられています。

一方で、フロントカントリーの重要さを理解しつつ、LNTの指導者としてぶらしてはいけないのは、それはLNTは、バックカントリーから生まれたものであり、バックカントリーでこそ7原則の包括的な意味が理解できるということです。

そのため、LNTトレーナー育成を担うマスターエデュケーターは、やはりアウトドアリーダーであることが前提条件となるでしょう。一つの理由は、トレーナーコースの参加者は、さまざまなシーンのアウトドア指導者が参加します。その時に、マスターエデュケーターの幅広いアウトドア経験がなければ、LNTの説得力がありません。

もう一つの大きな理由は、LNTを本当に理解し、行動に移すためには、やはりバックカントリーがとても重要ということです。

今回は、その理由を私の研究成果から解説するとともに、この記事の結論としては、LNT指導者は、市民に、LNTを正しく伝え、行動に移してもらうために、バックカントリーにおけるアウトドアリーダーとしての資質も磨いていきましょうねということです。


目次

・LNTの理解と行動にはバックカントリー経験が重要
・バックカントリー体験が成人後のLNTへの関心、理解、行動につながる
・LNTを行動に移すためにはバックカントリーアドベンチャー経験を


LNTの理解と行動にはバックカントリー経験が重要

これは、国内で初めてマスターエデュケーターが誕生した翌年の、2014年に行った研究です。マスターエデュケーターか監修したLNTワークシップが、キャンプに参加した子どもたちの環境態度と環境行動にどのような影響を及ぼすか、バックカントリー経験者と未経験者で比較したものです。

T. Okamura, M. Okada, & J. Post(2021)How to Spread Leave No Trace into Japanese Organized Camp Based on Evaluating Participant’s Environmental Attitude, Journal of Outdoor Recreation,Education, and Leadership(On the Process of Referee).

8日間の教育キャンプのうち、最初の4日間がキャンプ場にLNTのワークショップや、登山の準備などを行いました。キャンプ5-6日にかけて、1泊2日の登山遠征に行きました。キャンプ7-8日目にキャンプ場に戻ってきてレクリエーション活動を行いました。

その結果、バックカントリー経験者は、LNTワークショップにより環境態度が向上し、キャンプ後まで維持されるのに対して、バックカントリー未経験者は、何とLNTワークショップ後に、環境態度が低下し、登山でもさらに低下し、キャンプ後に、やっとキャンプ前と有意差(意味のある差)がない程度に回復することがわかりました。

登山などの冒険活動により、ストレスや、自己成長の過程としての葛藤により、一時的に環境態度が低下することは知られていますが、LNT7原則を体験したことで、環境態度が低下するは驚きますね。これは、おそらくLNT7原則をバックカントリーでどう活用するのかイメージがつかず、分からないことに対する抵抗が態度低下の要因であると考察されました。

さらに、LNT7原則を理解した、登山中(4-5日目)とキャンプ場(7-8日目)の、環境行動の表出を比較したところ、「原則5最小限のたき火の影響」以外は、いずれも登山中の方が、環境行動が高く表出されました。原則5については、登山中はガスストーブを使い、たき火を使用する機会がなかったことが原因と考えられます。

以上のことから、LNTを理解するためには、バックカントリー経験があった方がより効果的であり、LNTを行動に移すためにもバックカントリー状況の方が適していると言えます。


バックカントリー体験が成人後のLNTへの関心、理解、行動につながる

次の研究は、現在東海大学の岡田成弘先生が学生の時の共同研究で、「Significant Life Experiences」という、現在の環境行動に影響を及ぼした過去の体験を探る研究手法を、教育キャンプに応用したものです。

岡田成弘, 岡村泰斗, 飯田稔, 降旗信一(2008)少年期の組織キャンプにおけるSignificant Life Experiencesが青年期の環境行動に及ぼす影響-花山キャンプを事例として-. 野外教育研究,12-1,pp.27-40.

本来研究とは、一般化できるものでなければならないのですが、対象として花山キャンプが、結構バックカントリー遠征などを含むレアな教育キャンプなので、査読で「事例として」となってしまいました。

※読者の解釈を助けるために因子名を修正しました。詳しくは原文を当たってください。

この研究の対象者は、花山キャンプのOB、OGと、任意の協力で子供のころ教育キャンプに参加しことがないと回答した一般成人ですが、そもそもの前提として、キャンプ経験者の方が、環境に関心を持ち理解しようとする行動や、日々の生活で環境への負荷を低減しようとする行動が高いことがわかりました(キャンプ関係者ほっと一安心)。一方、環境保全活動に参加したり、行政の施作に関与すると行った、かなり意識が高くなければしないような行動までは差がなかったようです。

※読者の解釈を助けるために因子名を修正しました。詳しくは原文を当たってください。

次に、じゃあ大人になってからの環境行動に子どもの頃のキャンプ中のどんな体験が影響を及ぼしたのかということですが、この図の縦軸は相関係数と言って、0.4-0.7が「やや関連がある」、0.2-0.4が「弱い関連がある」と解釈できます。アスタリスクは、その結果が妥当かどうかです。

その結果、キャンプ中に、「沢で遊んだ」「登山に行った」「火を起こした」「星空を見た」などの「原生自然体験」が、大人になってからの「環境関心理解行動」とやや関連があることがわかりました。

このことから、原生自然体験=バックカントリー体験が、成人後に、環境に対して関心をもったり、調べたりしようとする行動に影響を及ぼすことがわかりました。


LNTを行動に移すためにはバックカントリーアドベンチャー経験を

最後の研究は、野外教育プログラムは、自然に対する態度を育てると言われていますが、果たしてどうやって育っているのかという研究です。

岡村泰斗, 飯田稔, 橘直隆, 関智子(2000)キャンプにおける環境教育・冒険教育プログラムが参加者の自然に対する態度に及ぼす効果の比較研究. 野外教育研究,3-2, pp.1-12.

Priest, S. (1986). Redefining Outdoor Education: A matter of Many Relationships. The Journal of Environmental Education , 17(3): 13-1

これは、野外教育をお馴染み「野外教育の木」のモデルで考えたもので、野外教育の目的を達成するためには、冒険教育というアプローチと環境教育というアプローチの2つがありますよという考え方です。詳しくはこちらのブログを。

長期間の教育キャンプに、冒険教育プログラムや環境教育プログラム(この研究の場合は環境学習プログラムと定義)を導入したり、冒険教育プログラムや環境教育プログラムを統合してみたりと、いくつかの実験を重ねた結果、以下のモデルを構築しました。

人間の態度には、良し悪しを判断する「認知的態度」、好き嫌いを判断する「感情的態度」、やるやらないを判断する「行動的態度」があり、主体的に安定した行動を起こすためには、認知的態度と感情的態度の調和が必要と言われています。

キャンプに導入した環境学習プログラム(LNTに置き換えればLNTワームショップと入っていいでしょう)は、自然に対する認知的態度に、登山などの冒険活動は、自然に対する感情的態度に、主として影響を及ぼすことがわかりました。

つまり、主体的にLNTを行動に移すためには、「LNTは良いことだ」と思うだけでなく、「自然って好きだなぁ」っと思う気持ちが大切で、そのためには、冒険活動や、実際に冒険活動の行われたバックカントリー体験が必要だということです。

また、逆も言えて、「自然が大好き」だけでは、自然に対してどう行動して良いか分からずに、正しい行動は起こせないということです。つまり好きだけはなく、なぜそうしなければいけないのかLNTの理解も重要ということですね。


まとめ

ちょっと脱線しますが、現在環境省が「国立公園満喫プロジェクト」を実施しており、しっかり機能すれば、もっと多くの人がバックカントリーを経験し、日本のバックカントリーの素晴らしさに気づく日が近いと思います。また、多くのサポーターが、旅行業、旅客業関連業者で、バックカントリーへの旅をより快適に、身近にしてくれるはずです。

たくさんの人が、私の大好きな日本の山に触れてくれるのはとても嬉しいことですが、それによって日本の山が傷つくのだけは見たくないですし、その結果、規制、禁止だらけの山になってしまったら、大好きな山にも、気軽にいけなくなってしまいます。

LNTをそうした方々に届けるために、LNTJの役割は重要で、かつてないタスクを前に武者振るいがしますね。


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