1994年に設立したLNTは、今年で30周年を迎えます。その間、世界96カ国に広がり、これまでも、これからも、アウトドアレクリエーションの環境倫理として、不可逆的な地位を確立したと言えましょう。そして、その世界的なネットワークと、30周年の節目を記念し、10月7日-9日に、LNTの本部があるコロラド州ボルダー市で、LNTグローバルサミットが開催されました。この報告では、カンファレンスの概要と、ブランチ4カ国によるシンポジウムの質疑応答を掲載します。
カンファレンス概要
会場となったボルダーは、アメリカのアウトドアに関するNGOや、アウトドアブランドが本部を持つを、アメリカのアウトドの中枢とも言える街です。
参加者は約300名で、内訳は、国際ブランチの関係者、これからブランチを目指す国の関係者、LNTの理事、スポンサー、ステイトアドボケイト(州の担当者)、研究者などが一同に会しました。
プログラムは、キーノート、シンポジウム、ワークショップ、研究発表などと一般的なコンテンツでしたが、印象的だったのが、15分間の研究発表12題が、分科会で行われるのではなく、メインホールで2日目の午前中をフルに活用し、行われたことです。このことからもLNTがいかに科学的エビデンスを重視しているのか伝わってきました。
インターナショナルシンポジウム
カンファレンスの大トリとなる3日目最後のプログラムとして、グローバルサミットの名前に相応しく、ブランチ4カ国(カナダ、ニュージーランド、アイルランド、日本)+アルゼンチンによるシンポジウムがおこなれました。以下モデレーターからの質問とLNTJのプレゼンを紹介します。
1.あなたの国のLNTについて紹介してください。
日本で初めてのマスターエデュケーターコースは、2013年に、WEAJの主催により、NOLSのインストラクターを招聘し行われました。初めの数年間は、LNTはWEAのコースの中でのみ指導されていました。2016年からKEEN JAPANの支援により、全国でLNTトレーナーコースが行われ、LNT指導者が一気に増えたことや、アウトドアメーカーからのニーズにより、2021年にNPO団体として設立し、2022年にブランチ契約を結びました。その後、3年間で会員は約900名に増え、100以上の団体メンバーができました。
2.LNTが解決すべき、環境に関する最大の課題はなんですか?
日本も他の美しい自然を持っている国同様に、アウトドアレクリエーションによる決定的なダメージは限定的です。むしろ、その原因となるビジターに正しい知識を提供することが最大のチャレンジです。この10年日本はアウトドアブームで、多くの人が自然の中に出かけ、アウトドア産業は活況となりました。それに伴い、SNSや、新たに参入したメーカーが、環境を無視したファッションやトレンドを発信し、多くのビジターは誤った知識を持ったままアウトドアに出かけています。現在、Z世代を中心としたグループと連携し、SNSで壊した自然を、SNSで回復しようと、新たな試みを始めています。
3.LNTはあなたの国でどのように機能しますか?また普及の妨げとなるものはなんですか?
日本では、LNT_USの三つのゴールに加え、「全ての野外指導者にLNTを」を追加しました。2023年に、日本えAdventure Travel World Sumittが開催され、インバウンドを対象とした日本のアドベンチャーツーリズムにグルーバルスタンダードが求められ、現在アウトドアガイドを中心に急速にLNTが広がっています。
一方で、国立公園を管理する環境省は、独自にナショナルコードを開発しており、かつ、それぞれの自然公園は長年使用されている規則やルールが独自にあり、すぐにLNTが自然公園の行動指針にはなりにくい状況です。ただ、LNTはそれらを否定し、とって変わるのではなく、それぞれの行動基準を、7つの原則で科学的にサポートできればと考えています。
4.LNTを文化的、伝統的な分野への配慮はありますか?
このテーマには、少数民族文化と宗教文化の二つの側面があります。日本には、北海道にアイヌ民族がおり、北海道の観光にも大きな影響を与えています。彼らの文化には、子グマをとってきて、村で育て、それを殺して神の国に戻し、人間の世界が素晴らしいところであることを神に伝え、自然の恵みに感謝する習慣があります。北海道へのLNTの普及はまだまだですので、アイヌとの具体的なコンフリクトはありませんが、LNTは伝統民族や地域の人々の価値観や習慣を変えるのではなく、それらを大切に守っていく概念であると信じています。
また、宗教文化について、会場には、日本で唯一LNT指導者資格を持っている日本仏教の僧侶が参加してます。仏教にも国によって様々な宗派がありますが、日本の仏教は、シンプルで、自然と調和した思想を強調しているように思います。僧侶がLNT指導者を目指されたのも、仏教の思想とLNTの概念がマッチしている証拠だと思います。日本人はあまり宗教心が強くありませんが、日本人の基層にある仏教的な精神に、LNTはとても相性が良いと思います。
5.LNTは政府や地方自治体の土地管理にどのような影響を与えていますか?
前述した通り、政府や地方自治体はすでに自然公園の行動基準があり、それらとLNTをどう融合させるのかはともて難しい問題です。これに対しては、二つのアクションがあります。一つ目は、アメリカでも行われているスポットライトプログラムです。すでに、4つの自治体と連携し、そのうちの2つ自治体連携協定に発展し、別の二つはエリア拠点へと発展しています。LNTが地域の問題を解決し、信頼関係を構築するために、スポットライトはとても重要なプログラムと位置付けています。
二つ目はロングトレイル団体との連携です。自治体と個別に連携するのは簡単なことではありませんが、ロングトレイルは、複数の自治体に同時にLNTを導入することができます。日本の多くのトレイルは、アパラチアントレイルをモデルにしているので、ロングトレイルにはLNTは、抵抗なく導入することができます。
6.次の5年のLNTの国際的な課題はなんですか?
アジアの多くの国がLNTを導入しており、みな国際ブランチに興味を持っています。ただ、アジアには、様々な経済規模、社会システムの国があり、現在のブランチ契約が必ずしもどの国にも合っているとは限りません。LNT7原則は正解中で普遍的な考えだと信じています。文化や宗教は時として人々や国を分けますが、LNTはそれらをつな力があります。そのためにも、より多くの国がオフィシャルにLNTを使用できる新たな仕組みづくりが大切です。次回のグローバルサミットには、全ての国のLNT関係者が集えるようなカンフェレンスになることを夢みます。
所感
LNTのブランチは、オーストラリア(独立組織)、ニュージーランド、カナダ、アイルランドなど英語に留まり、アメリカの情報をそのまま活用できましたが、これに初の非英語圏として日本が加わったことにより、真のグルーバルサミットになったように感じました。また、日本のブランチ加盟は、中国、台湾をはじめとする日本よりも早くLNTを導入していた国や、他の東南アジアの国々にも、大きな刺激となっています。
2020年2月に、LNTブランチ交渉を開始し、直後のコロナパンデミックは私に全国組織を構築するための思考と行動の時間を与えてくれました。2023年のATWSでは、日本にもLNTがあると世界に発信することができました。この時LNTを統括する組織が日本になかったら、国内のLNTはカオス状態になっていたでしょう。そして、2024年グルーバルサミットには、ブランチの一つであり、唯一の非英語圏としてその席に座ることができました。それぞれを明確にイメージしてLNTをスタートしたわけではありませんが、改めてビジョンと運命でものごとは回っていくんだなあっと感じました。
LNTアイルランド来日
そして、いよいよ、世界で最も成功していると言われているアイルランドのLNTが日本にやってきます(詳しくはブログ「アイルランドのLNT」)!この交渉も、なかなかメールやZOOMではうまくいきませんよね。やっぱりフェイスtoフェイスで信頼関係ができてこそ。来年は北海道道東で、世界のLNTを体感しましょう。
第13回ジャパンアウトドアリーダーシップカンファレンス
主 催:一般社団法人Wilderness Education Association、NPO法人リーブノートレイスジャパン
期 間:2025年6月17日(火)-19日(木)
場 所:北海道網走市及び知床周辺