デュークオブエジンバラアワード再考

みなさんデュークオブエジンバラアワード(DofE)ってご存知ですか?デュークオブエジンバラは、イギリスの王室の称号ですが、それを冠したアワードは、14歳から24歳までの青少年に対する国際的な教育プログラムです。2026年4月25-26日にマレーシアのクアラルンプールで行われたOFFSEASでは、このアワードの話題や、IB校に関する情報が盛りだくさんでしたので、カンファレンス報告を兼ねて紹介します。

デュークエジンバラアワードとは

この起源は、実は野外とめちゃくちゃ近い関係にあります。1941年にOBSを設立したクルト・ハーンですが、実はそれ以前からも冒険活動を取り入れた青少年を実践していました。

彼は、1934年に、現在のOBSにつながる「責任感」「挑戦」「思いやり」を教育理念にした「ゴードンストン校」という学校を設立しました。この学校では、アウトドア活動、セーリング、奉仕活動(コーストガード)などのカリキュラムを特徴し、この実践が、帆船による航海遠征をカリキュラムとするOBSに繋がりました。

この学校に、1期生として入学したのが、イギリスの王室のエジンバラ公フィリップ殿下で、彼は、卒業後に、ゴードンストンの「モレーバッジ」のシステムをベースに、1954年に「DofE」を創設しました。

現在では、ロンドンに本部を置く、国際デュークオブエジンバラアワード協会が管理し、世界144カ国に広がる世界最大の青少年教育プログラムです。

その世界的信頼を表す指標として、イギリスで最も評価の高い新卒採用企業を示す「Times Top 100 Graduate Employers」のうち、Goldman Sachs、Morgan、Deloitte、Google、Amazon、Rolls-Royceなどの名だたる企業が、DofEを採用の基準の一つにしています。

実は、文科省も以前このプログラムを試験的に実施し、私もアドバイザリーコミッティに入り、何人か若者をサポートしたのですが、全体として本質的なカリキュラムとならず、短命の事業で終わりました。また、世界各国に国際協会の事務局があるのですが、残念ながら日本の事務局は閉鎖されていまったそうです。

デュークエジンバラアワードのカリキュラム

©️The Duke of Edinburgh’s International Award Foundation

アワードは、14歳以上が取得できるブロンズ、15歳以上が取得できるシルバー、16歳以上が取得できるゴールドの3つのランクがあります。それぞれに一定期間の、ボランティアサービス(奉仕、環境保護など)、フィジカルレクリエーション(スポーツ、アウトドア活動など)、スキル(文化、芸術、音楽など)に加え、指定された期間のアドベンチャージャーニー、つまり野外遠征が定められています。この点についてより詳しく後述します。

なぜ今再考?

これを理解するためには、今日のアジア各国における、インターナショナルスクールビジネスの活況を理解する必要があります。インターナショナルスクールは、各国の教育基準に基づかない独自のスクール形体で、日本では学習指導要領に基づく一条学校(いわゆる小中高)に対して、予備校やフリースクールと同じ「各種学校」と位置付けられています。

国際化、多様性などを特徴とするインターナショナルスクールですが、ここで問題となるのが、各国の教育基準とは異なるため、中卒、高卒の資格が得られないという問題です。この問題を解決するのが国際バカロレア(IB)という国際的な教育プログラムで、これを修了すると、世界中の大学受験資格が得られるというものです。当然のことながら各国の教育基準に基づかない独自のカリキュラムを特徴とするインターナショナルスクールは、このIB校としての認定を受けることが、生徒獲得の必須条件となるわけです。

そしてこのIB校認定を受けるためのカリキュラムこそ、以前ブログに紹介したCASです。詳しい説明は以前のブログを参照して欲しいのですが、CASのカリキュラムが、DofEとほぼ一致しているのです。

文化、芸術、音楽等を示す創造的活動(Creativity)は、スキルに、スポーツ、フィットネスなどの身体活動(Activity)は、フィジカルレクリエーションに、ボランティア活動などの奉仕(Service)はそのままボランティアサービスに紐づいていいます。

つまり、IB校であれば、必然的にDofEの3つのカリキュラムは消化できるといいうことです。そこで必要になってくるのが、学校レベルではなかなか実施しにくいアドベンチャージャーニーであり、これこそが野外遠征教育の指導者養成を行う、WEAが貢献すべきカリキュラムです。

アドベンチャージャーニー

野外遠征のカリキュラムは、「目的」「期間」「場所」「宿泊」「グループ」「事前トレーニング」「移動手段」「指導者」「装備・食事」「報告」に関する10の条件が示されています。今回はこれらのうちいくつかを紹介し、WEAカリキュラムとの親和性について紹介します。

期間

期間について、14歳から取れるブロンズで1泊2日、15歳以上シルバーで2泊3日、16歳以上24歳までのゴールドで3泊4日の野外遠征が義務付けられています。この期間は、WEA教育の体系の、OLE、OLTC、COLとほぼリンクした遠征期間となります。WEAのCOLとは、4泊5日以上の野外遠征を指導できる知識と技能ですので、DofEの野外遠征の期間を網羅した資格と言えるでしょう。

今日シンガポールで全ての15歳を対象とした冒険教育マスタープランでも、2泊3日の野外遠征が義務付けられている通り(参照:シンガポールのアウトワードバウンド)、DofEも、シンガポールも、WEAも、OBSのカリキュラムが起源となっていることを考えると、カリキュラムと指導者養成がリンクしているのも不思議ではありませんね。

グループサイズ

グループサイズは、4-7名、ただし、タンデム移動が必要な場合8名までと、こちらもWEAカリキュラムをベースにしているBCの運行規定の8名と一致しています。また、最小催行も直感的ではありますが、BCが示すWEAコースの運行の最小催行と一致しています。

OBSでは伝統的に「10グループ」という基準があり、10人前後という人数は多様性があるが統一も可能、小集団が形成されるが一つの集団として機能する、対立が起こるが融合することができるなど、集団成熟に必要なグループダイナミクスを引き起こすための「黄金律」といえます。

現在多くの学校登山は、国内のガイド規定が示す1:20のガイドレシオで行われています。もちろんこれらには、DofEが求める教育を担保する必要はありませんが、DofEの普及は、野外教育としてふさわしい1:8の「黄金律」の価値を社会に示す良い機会になるのではないでしょうか。

移動手段

移動手段、つまり何で遠征を行うかということですが、動物も含んだ、動力を使わない「人力」による移動が義務付けられてます。つまりこれがまさにWEAの示すアウトドアパスーツによる移動なのです。動物というのは馬やロバですが、もちろんホースバックライディングという活動も可能ですが、例えば中国の高所登山では、登山口からベースキャンプまで、ロバなどによる移動が一般的です。

アウトドアパスーツとは、人の手の及ばない大自然にまで能力、目的に応じて発展性のあるアウトドアスポーツのことで、ハイキング、クライミング、パドリング、サイクリング、スキーが含まれます。詳しくはブログ:アウトドアパスーツって何?を参考して欲しいですが、これらの活動を採用することにより、野外遠征が教育としての強力なツールとなるのです。

指導者

野外遠征を実施するためには、3つの指導者が義務付けられています。
・スーパーバイザー:野外遠征全てに責任を負う。
・アセッサー:野外遠征が条件を満たしているか評価する。
・インストラクター:野外遠征中の指導を行う。
それぞれが、兼任できるかどうかはさらなる調査が必要ですが、これらを学校の教員が行うことができるでしょうか?

スーパーバイザーは、リスクアセスメントから始まり、遠征が参加者にとって教育的価値があるのかデザインする能力が求められます。国内の野外指導者を見ても、この能力を有する人間はかなり限られているのではないでしょうか?

また、8名に1名のインストラクターは、当然単一の学校職員でカバーすることは不可能です。またガイドスキルに加えて、ファシリテーション、エデュケーションなどの技能も必須となり、まさにCOLの資質そのものです。

最後に

今日のインターナショナルスクールに対する社会的ニーズの高まりは、そのままDofEへの期待へと発展していくでしょう。我が国の野外教育は、世界に類を見ない野外施設とう行政によるインフラサポートで発展してきましたが、そのスキームもみなさんご存知の通り、限界を迎えつつあります。DofEの国内導入は、野外教育の伝統的であり、普遍の「型」をあらためて示し、シンガポールの野外教育がV字回復したように、我が国の野外教育に再び光を灯す力となります。

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野外教育の概念について詳しく知りたい方は、アウトドアリーダー・デジタルハンドブックを参考にしてください。

本格的に野外指導を勉強し、指導者を目指したい方は、Wilderness Education Association Japanのサイトをご覧ください。