賢く使いこなせ新型コロナ感染検査キット

新型コロナパンデミック宣言から一年経ってしまいましたね。ワクチン摂取が開始されたものの、我々まで届くには、今年いっぱいかかりそうですね。

一都三県も緊急事態宣言が解除され、行政は恐る恐るの段階的緩和の様子ですが、民間はまたルールの隙間をぬって一気に感染拡大に加担しそうな雰囲気です。

本来危機に遭遇した野生動物は、そろりそろり周囲を警戒しながら顔を出すのですのですが、今回ばかりは行政の方が生物の本能に従っている様子です。

とはいえ、民間は民間で食っていかなければしょうがないでの、今後予想される、第4派、第5派を、これまで培ったノウハウと、テクノロジーの進歩でなんとか乗り越えて行きたいものです。

そこで、今回は、コロナ感染検査キットについて、ようやく安価で購入可能となった、抗原検査、抗体検査について、その活用方法と、勘違いしてはいけないポイントを解説します。

簡易感染検査キットの市販が開始されました

昨年の4月の野外教育事業のガイドラインを作成中に、海外のガイドラインのレビューの中で、何度も、POCT(Point Of Care Testing)なるものが頻繁に出てくることを知りました。何かと思って調べてみると、抗原検査キットのことでした。

野外教育事業では、マスク、ソーシャルディスタンは、事業の効果に直結し、感染予防と緩和のバランスが極めて重要です。

そこで、この抗原検査を行い、集団の陰性を証明することにより、集団の感染リスク(リスクとは確率です)が下り、より高い緩和策を取ることができるということです。

これはいいと思い、国内の業者を調べてみたところ、市販のものはなく、医療機関に卸すような企業しか取り扱いがありませんでした。しかも、一回一万いくらだったかな?保険適応でなければ到底使えない価格でした。

つまり、日本の医療商品の市販化は、海外よりも1年遅れということがわかりました。それだけ厚労省が信頼性を検証していると信じましょう。

そんな中、年明けぐらいから、急に、まずは抗体検査、次に抗原検査の検査キットの安価な情報がネット上で出るようになりました。価格も、まとめ買いをすると2000円台が相場で、これなら野外教育事業の経費としても、捻出可能です。

BCの事業でも、今年から、この抗原検査をコース前に実施することにしました。そこで、今回はこれまでのBCの運用方法について紹介します。

PCR検査・抗原検査・抗体検査とは?

それぞれの検査を理解するためには、ウィルスと免疫反応を理解しなければなりませんが、ここでは詳しくはできないので、WMTCの「衛生管理」や「アナフィラキシー」、BCの「アフターコロナの野外教育」などのブログで理解を深めてください。

さらっと説明しますと、ウィルスは遺伝子情報を持っている非生物で、自分で繁殖できません。生物の細胞に入りこみ、自己を増殖させる病原体です。免疫反応とは、体を正常に保とうとする機能で、特定の病原体に対して、警戒するためのアンテナを張ります。これが抗体です。抗体ができると、特定の病原体が体内に入り込んだときに、白血球が攻撃するので、感染せずにすむということです。

まず、PCR検査とは、Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)のことで、ウィルスの微小な遺伝子を、DNAポリメラーゼによって増幅させて、検査するというものです。ですので、専門の器具と技術が必要になります。検査時間も数時間で、一般の人はできません。

ネットではPCR簡易テストなるものが市販されていますが、標記として本当に良いのか疑問です。簡易テストができる技法が、なぜ今まで、専門の検査技師が不足している、保健所が対応できないなどとニュースになってきたのでしょうか?ネット上のPCR簡易検査は、ここでいう抗原検査のことですね。

次に、抗原検査ですが、こちらはウィルスのタンパク質を評価するのもで、PCR検査同様に、今体内にウィルスがあるのか、ないのかを評価します。 検査時間も15-30分程度で、唾液、鼻咽頭から採取します。ただし、遺伝子を調べるPCR検査に比べると信頼性は低いと言われています。ネットの広告では、「信頼性95%」などとうたわれていますが、感染後のタイミングによっても信頼性は全く異なるので、この広告文句もどうかと思います。

最後に、抗体検査ですが、これは、上述した体内に生成された抗体を調べるものです。よって、ウィルスに感染した直後ではまだ抗体が生成されていないので、信頼性が上がるまでには、数週間かかります。こちらも検査時間は、15-30分程度で、粘膜からと血液から採取する方法の2種類あります。使い方としては、集団免疫がどれくらい生成されているかなどのサーベイが向いています。よって、コース直前のアセスメントには不向きで、「抗体検査で感染予防」などと書かれた広告も信頼できません。

以下のモデルが、抗原検査と抗体検査の違いをよく表しています。PCRと抗原検査を一緒と考えてください。IgGとIgMは抗体のことです。ウィルスは感染後平均5-6日で症状が発症すると言われています。以下のPCR検査の偽陰性率をみると、感染直後は100%偽陰性で(つまりやっても無意味)、5日目でやっと38%になりますが、分散が18-65%と、かなり信頼性が低いことがわかります。ところが6日目から一気に分散がなくなり(=信頼性が上がり)、8日目に20%と最低値となり、また徐々に偽陰性率が高まっていきます。ここから言えることは、下図のように、抗原検査は感染後1週間ぐらいから4週間ぐらいまでしか使い物にならないということです。一方、抗体検査は、体内に抗体が生成される感染後2週間目ぐらいからしか検出できず、抗体の低下とともに、検出できなくなっていきます。

引用:10.1001/jama.2020.8259

引用:ジョンズ・ホプキンス大学,2020

マスク、消毒、検査の効果は限定的。

現在一般的に行われているソーシャルディスタンス、マスク、消毒の効果は、第3派を引き起こしたGo Toトラベルで効果が限定的なことは立証されました。

もはやマスクは感染予防というよりは、商材化されてしまってますよね。エアコンや空気清浄機でウィルス除去なんていうのがありますが、空気中を浮遊するウィルスをどうして、マスクで予防できると考えるのでしょうか。もちろんリスクマネジメントですからリスクは下がりますが、効果は限定的でしょう。

東大の研究によれば、安倍のマスクでおなじみの布マスクは一番効果が低く、N95などの医療用マスクになるにつれて効果が高くなるようです。ざっくりと吸い込む側の効果は30%ぐらい、吐き出す側の効果は70%ぐらいというところでしょうか。両方つけているデータはなかったのですが、双方つけていると、計算上は、80%ぐらいの効果があるということになります。

引用:Hiroshi Ueki et al., 2020

また、別のデータでは、マスクとフェイスガードの比較がありますが、マスクの結果は東大の結果と同じでエアロゾルは30%漏れますが、フェイスガードについて言えばほぼ効果なしです。

最近テレビ番組では芸能人がフェイスガードをつけて地方に行ってロケしていますが、倫理的にどうなんですかね。まさにコロナウォッシュです。

コロナウォッシュ:環境配慮しているように見せかけ実態は環境負荷の高い事業をしている企業を揶揄するグリーンウォッシュからの岡村が勝手に作った造語。コロナ対策をしているように見せかけて実態は感染予防効果はほとんどない。

引用:理研・豊橋技科大・神戸大提供、京都工繊大・大阪大・大王製紙協力,2020

また、消毒に関しても、接触頻度の高い場所を定期的に消毒したりしていますが、消毒直後に誰か触ったら、全く意味がありません。「うちは消毒をしているので安心・安全です」って言いたいのでしょうね。

一方、各自がハイタッチサーフェイスに触れる前に消毒して、触れた後にも消毒するのであれば、これは感染をしない、させないに効果あるでしょう。

感染検査も上述した通り、信頼性が100%になることはありません。また、一番使い方を間違っているのは、「スタッフは月に一度PCR検査を実施しているので安心です」というようなフィットネスジムなどの対面ビジネス。PCR検査で陰性がでたその日に「よかった今回も陰性かんぱ〜い」なんてやったら、その瞬間からPCR検査の意味はゼロです。もちろんそのようなハメを外さなくとも、次のPCR検査まで、なぜ感染していいないと立証できるのでしょうか?まさにコロナウォーッシュ。

では抗原検査をどう活用するのか?

以上のデータから、

マスク≠感染リスクゼロ

抗原検査陰性≠非感染

ということがわかりました。

では、どうしたらいいのか?

結局最大の感染対策は、感染経路を断つこと。つまり隔離です。

自主隔離<自己隔離<集団隔離

BCの研修やコースでは昨年のコロナ禍から、理想的には2週間、最低でも1週間(発症の平均が5-6日のため)の、自主隔離と健康チェックを義務付けています。

自主隔離の定義は、自己の判断で3蜜を回避し、所属先のガイドラインに沿った社会生活を送ることです。

理想的には、完全に感染経路を断つ、テレワーク、オンライ授業などの自己隔離の方が理想ですが、さすがに現実的ではありません。

コース参加者全員で、コース前から1週間の監禁生活を送る集団隔離であれば、限りなくゼロリスク集団と言えます。

WMTCでは、これらの隔離を原則として、抗原検査を併用することにより、以下の感染リスクの程度を示しています。

まずは隔離を基本として、抗原検査で非感染のエビデンスを得るといったところでしょうか?

BCでは、これらの情報を総括し、抗原検査を使った以下のガイドラインで野外事業を提供しています。

1)最低コース前1週間の自主隔離

2)最低コース前1週間の健康チェック、問題がある場合は、コース参加中止

3)コース参加直前に抗原検査を行い、その後原則自己隔離、陽性の場合は、コース参加中止

なぜ検査を行うのか?

事前に隔離を行っていれば、ロジック的には感染していないので、なんでわざわざ抗原検査を行うのか?BCでは以下の考えに基づいて、実施しています。

1)極小のリスクの排除

しっかり隔離をしていれば、感染リスクはほぼありませんが、それでもリスクは「ほぼゼロ」で「ゼロ」ではありません。人によって、発症までの日数はことなります。また、自主隔離の場合、完全に経路遮断にも限界があります。よって、ほぼいないであろう陽性を最後の最後で排除するために行います。そうすれば、コース内はさらにゼロに近くなり、陽性だった人も、人にうつさなくてよかったあって思えるはずです。

2)コース中の感染対策の緩和

野外教育のコースでは、接触、対話、表情などのコミュニケーション手段がとても重要です。参加者全員が、例えコースで初めて会った人でも、陰性のエビデンスがあることにより、安心してコミュニケーションを取ることができます。「この人感染しているかもしれない」なんて思っていたら、BCの野外研修は成立しません。

3)コース前1週間の自主規制

社会生活を送る中で、どうしても感染リスクの高い瞬間というのは生まれてしまいます。直前に抗原検査を義務付けることで、誰しも陽性の結果は欲しくないので、感染リスクの高い行動の抑止力になります。「あの人コロナになって参加しなかったんだって」「なんて責任感のない人なんでしょう」なんて思われたくないですものね。

新型コロナウィルスはこれからの私たちが共存していくものです。ほんとは新型コロナだけではなく、私たちは常に数多の病原体に囲まれて生活しています。私たちが常に病気になるわけでないのは、生命の長い歴史の中で、これらの病原体の抗体を備えてきたからです。

日本人が新型コロナの集団免疫を持つまでおおよその見解では今年いっぱいと言われています。現在の社会一般の感染対策を見る限り、もう2、3派はあるかもしれせん。

野外事業は、マネジメントを誤れば、最悪の集団クラスターになりますが、ロジカルにマネジメントすれば、最強の集団隔離集団、≒ゼロリスク集団とも言えます。もう一年、エビデンスとテクノロジーを駆使して、ロジカルに、スマートに野外の歩みを続けましょう!