スキーキャンプヒヤリハット

日本のリスクマネジメントでお馴染みのヒヤリハット。カタカナ日本語なのでついつい英語かと勘違いしますが、冷静に考えると、完全なる日本人的オノマトペ。間違ってもHe Earry Hat!などと言わないように。

英語は、Accident Near MissやClose to Callと言われており、身体的、心理的、経済的ダメージのない事象、もしくは受け入れることが可能な軽微の事故、つまりIncidentのことです。このインシデントを分析することで、将来起こりうるAccidentを未然に防ごうとするアプローチは、リスクマネジメンのとても重要な手段です。

今回の話題は、日本アウトドアネットワークが行っている民間野外事業者のヒヤリハットのうち、2014/15シーズンにおけるスキーキャンプにおけるヒヤリハットを分析したものです。詳しくはしっかりオリジナルに当たってくださいね。

稲松謙太郎, 砂山真一, 高瀬宏樹, 岡村泰斗(2016)民間野外教育事業者におけるスキーヒヤリハットの分析,キャンプ研究,19,31−36

スキーレッスン以外が落とし穴

絶対的な活動時間を占めるスキー、スノーボードの滑走、練習中の頻度が多いのはもちろんですが、以外にそれ以外の活動のヒヤリハットも多いですね。「スキースノーボード以外」と「自由時間」に含まれる最も多い活動は、「ソリ」27.6%、「雪合戦」13.8%でした。ソリでは「前方の子どもにあたった」、「転倒して雪面に顔を打った」などの事象が、雪合戦では「顔に雪玉が当たった」など。スキーレッスンではしっかりスタッフトレーニングされていますが、それ以外の活動は、子どもも夢中になりコントロールが難しそうですね。

スタッフのスキルアップが事故防止の肝

59%を占める、スキーボードのレッスン中の事故発生機序を3Eフォームでモデル化したところ、8の選択肢があるヒヤリハット根本発生原因のうち、ダントツ多いのが「スタッフの安全管理スキル」でした。これによりさまざまな危機状況が生まれ、「軽外傷」につながるというものでした。これは、2014のサマーキャンプの結果(以下参照)とも一致しており、民間野外教育事業者おける典型的なヒヤリハット発生機序と言えるでしょう。

岡村泰斗、稲松謙太朗、砂山真一、高瀬宏樹(2015)民間野外教育事業者におけるヒヤリハットの分析、キャンプ研究、18、29-36

上級者のカウンセラーはより広い視野を

技術別に分析したとろ、上級者のみ、頻度は少ないですが(6/131件)、「スタッフの安全管理スキル」以下の原因の頻度が高くなりました。「施設環境の整備管理」の2件はいずれもコースの合流点でした。また、予想される結果も、「筋靭帯損傷」などのでかいケガの頻度も増えました。上級者のカウとなれば、必然的にスキー技術や経験があるものがつくことになると思いますが、目の前のキャンパーの行動だけでなく、道具、環境、ピステの状況などより多角的な視野が求められますね。

どうするビンディングの解放値設定

次は斜度別の分析ですが、スキー事故は緩斜面の方が重大な事故が起こると言われているます。これは、重力や遠心力による衝撃をモロに受けるのに対して、急斜面では衝撃が何もない斜面の下方にいきコロコロと転倒で済むからです。

そんな急斜面も他の斜面と異なった結果が得られましたが、それが「適切な装備服装」が原因となったことです。その具体的な内訳いずれもビンディンの誤解放です。

1997年PL法が施行され、ビンディングの開放値調整は「加工」と見なされる行為で法の対象となりました(なってしまいました)。調整にはS-B-B認定整備技術者セミナーを受けたスタッフが行わなければなりません。

ただ現実的に、ゲレンデで明らかにビンディングの調整が問題で、誤開放する場合、そんなこと言ってられませんよね。またうちなんかバックカントリー行くので、自分達でできなければどうにもなりません。

ここで、開放値の設定をとやかく説明するつもりはありませんが、スキー技術、ソール長、体重などから、算出する専門的な知識が必要ですし、「前圧」というのがあっていないと、正しく算出した開放値も全く役に立ちません。

よって、やはりスキー指導者は、少なくとも開放値の設定の知識を持っており、特定の開放値チャートに従ったと責任を転化し、誤開放のままではより危険なので、やむを得ず行ったと(刑法37条緊急避難)対応するのが現実的でしょう。もちろんショップがあれば、そこに持ち込むのが前提で。

フリー滑走の使い方

フリー滑走は、単なる遊びや気分転換だけではなく、分習法による体の個別部位の動きを調和させ、スキー技術の上達のために、とても大切です。うちのスキーキャンプでも積極的にその時間をとっています。

ただ、フリー滑走や一人ずつでの滑走の時には、それ以外の練習と異なった傾向が見えてきました。まず、「筋靭帯損傷」や「骨折」などの重篤な傷害の頻度が増え、キャンパーのスキル、具体的には「スピードコントロール」が大きな問題となりました。

もちろん、スピードコントロールができないキャンパーにフリー滑走をやらせるというのはカウンセラーの判断ミスですが、実はスピードを出すというのも上達のへの重要な要素なのです。ですのうちの子どもスキーではスピードも出すように指導します。

以下うちの子どもスキーのフリー滑走のコントロールの仕方です。

1)比較的短くてコースレイアウトがシンプルなリフトのみとする。
2)必ずバディーシステムで滑る。お互いが見えなくなるほど離れない。
3)止まる場所を決めてからスタートする。その都度バディがそろってから改めて止まる場所を決めて再スタートする。
4)リフトの本数を決める。
5)カウンセラーは同じコースを巡回する。
6)それまで練習課題を意識させる。
7)事故発生時の対応をキャンパーが理解してからフリーにする。

フリー滑走中の事故といえども責任は主催団体にあります。一方、カンセラーがずっとそばにいたからとって、事故が起こらないわけではありません。野外で事故は起こるもの、予防も大切ですが、7)の事故が起こったときにどうするかが実はとても大切です。

意外に高頻度、リフトからのものの落下に要注意

これは、原因ごとの結果の重大性と頻度を平均化したリスクマトリクスですが、人的要因が91.1%となりましたが、緊急的な対応が必要な年に1度以上の頻度で、全治3週間以上の重篤な第一象限に入るものはありませんでした。これもサマーキャンプとほぼ同様の結果で、人的ミスで頻発するけど軽微なケガといのは季節や活動ではなく、民間野外事業者の典型的なヒヤリハットと考えらます。その裏には経験の浅いカウンセラーとあまり無茶できなプログラムというのが背景にあるのでしょう。

以上は平均値でしたが、個別に「1年に数回起こる」可能性があり、かつ「死亡・後遺症」が予想されるハイリスクな要因を検証したところ、3件うち2件が、「注意不足:リフトからストックを落とした」、「不適切な行動:リフトからスキーが落ちてきた」というリフトからのもの落下でした。ストックで後遺症とは考えにくいですが、目とか刺されば確かにそうかもしれません。スキーはエッジでスパッといっちゃいますしね。

回答者は、現場のカウンセラーもしくは、ディレクターでしたので、その方々が年に数回起こると評価したのでしょう。

スキーの特性上、リフト乗車中に全てのキャンパーと一緒に乗ることはできないので、意外な盲点かもしれませんが、リフトの乗り方もしっかり指導したいですね。当たり前かもしれませんが、改めて以下ご注意を。

1)ストックの手皮をつける
2)板の雪を叩いて落とそうとしない
3)板を降らない
4)手袋、帽子などの小物を取ったらウェアの中に
5)セーフティーバーを下げる

まとめ

今回、民間野外事業者を対象としたスキーキャンプのヒヤリハット分析でしたが、意外な盲点も見てきましたので、スキーキャンプをやる皆さんの団体でも、この冬もう一度チェックしましょう!
1)スキー滑走以外の自由時間のリスクマネジメント
2)上級者レッスンにおける多角的なリスクマネジメント
3)団体としてのビンディングの取り扱いポリシー
4)団体としてのフリー滑走の取り扱いポリシー
5)リフト乗降、乗車中のリスクマネジメント