いいキャンプとは

先日、キャンプ効果の予測要因ということでエビデンを求められて、昔の論文を引っ張り出して報告したので共有します。

この研究は、日本キャンプ協会の調査で、対象はD1、もしくはD2が運営する教育キャンプでした。全国55キャンプ、1590名のキャンパーを対象に行いました。いいキャンプのパラメーターとしては、全米キャンプ協会のナショナルサーベイを翻訳し、この尺度の得点が上がることを「いい」と定義しました(論文ではいいキャンプなんて言い方はしませんが…)。

Taito OKAMURA, Yoshinao HIRANO, Hiroki Takase, Satoshi TADA, Tomohiko KAI, Yasunori TSUKIYAMA, Hideki NAGAYOSHI, Ayako HAYASHI, Ryo YAMADA and Masahiro OKADA. (2012) The Influence of Camp Components on Youth Developmental Outcomes of Camp Experience., Japan Outdoor Education Journal, 15(1), pp.45-54.

対象となったキャンプ

キャンプ期間は最低2泊3日という条件をつけましたが、その最低の期間で、全体の56%を占めました。また7日以内で94.5%でした。7日というはアメリカでは短期キャンプカテゴリに入り、我が国では、短期キャンプが大半を占めるということですね。実はこの論文には載せられませんでしたが、7日目までは、日数が増えるごとに効果も高まり、7日目以上は効果が変わりませんでした(キャンプ協会の報告にはのってるかな?)。ただ、7日以上のNが少く、統計が行えなかったため、お蔵入りのデータとなりました。

キャンパーの学年は、アンケートへの回答があるため、小学校3年生以上としました。その結果小学生だけで全体の83.7% とでした。また、参加人数の平均が33.7人で、40人以内で80%というのが、特徴的な規模感でした。

プログラム要因

プログラムを、5日間でお馴染みの兵庫県自然学校を対象にプログラムの効果研究をした安波ら(2006)の分類に基づき比較したところ、まず、野外炊事やテント泊などを含む生活体験がたくさんある方が良いことがわかりました。次に環境学習はほどほどが最も良く、選択活動は、二山分布になりましたが、あまりやらない方がいいことがわかりました。これだとわかりにくいので、効果の低かったキャンプの中身を見てみると、自由時間や、自由行動を選択活動と回答している団体が多いことがわかりました。我が国の短期を特徴とするキャンプを考えると、あまりにも自由が多いというのも考えものということです。

環境要因

次に、自然度、宿泊方法などの環境要因について比較したところ、野外炊事にのみ効果があり、有意差があったのは、「提供の方がやや多い」ですが、グラフからも分かるとおり、野外炊事を全く行わないキャンプが最も効果が低くなりました。これはプログラム要因とも一貫した結果ですね。アメリカの教育キャンプって実はほとんどが食事提供で、ダイニングホールに集まって、テーブルマナーまでやるキャンプもあります。それに対して、確かに、テント泊や焚き火による野外炊事を行うプリミティブキャンプの方が効果が高いという研究もありました(Christry, 1982)。キャンプ中ずっと食事作りというのも考えものですが、プログラムに応じて程よく入れた方が良いのかもしれません。

参加者要因

参加者に関する要因で唯一効果があったのが、参加人数でした。統計的な有意差は31−40人の参加者帯ですが、ご覧の通り、40人を超えるとガクッと効果が上がらなくなりますね。経験的に、40人以上だと、班が6班以上になりますが、なかなかキャンパー全員覚えられないなという実感があります。また、学校教育研究に考察の拠り所を求めたところ、学級経営でも、私が子供のころの45人学級に比べ、現在の30人台の方が、教師が生徒をしっかり見られるという結果も出ています(昔は見られてなかったのですね)。ですので、30人台、だいたい5班(うちの場合8人がマックス)ぐらいが一つの教育キャンプの適正規模で、それ以上になると、ユニットに分けて、別のディレクターをつけるなど検討した方がいいかもしれません(最近花山そんなにこないので心配ありませんが)。

スタッフ要因

最後にスタッフレシオです。これは、PD、食料などマネジメントスタッフも入れた人数です。キャンパー1人対して、3人以上となると有意に効果が上がらなくなります。また、結論とまで行かなかったのですが、カウンセラーへのフィードバックや、毎日のミーティングをしっかりやるのも重要な要因でした。この研究で、フィードバックを全くしない、ミーティングもほとんどしないという団体が1団体しかなく、なんとそのキャンプでは効果得点がキャンプが下がってしまったので、それ以外にみんな効果が出て当たり前ということで結論に採用しませんでした。

まとめ

以上の結果から、いいキャンプとは、環境学習や野外炊事をある程度含み、計画的な野外生活体験が中心のキャンプで、参加者は40人未満、スタッフレシオ1:3以内といったところでしょうか?なんかめちゃくちゃ花山キャンプではなか。花山はこのベースに加え、ウィルダネストリップが教育効果への最大のアプローチとなっていますが、残念ながら今回の研究では、プログラム要因として「アウトドアスポーツ」の効果は認められませんでした。というのもそのほとんどが、アウトドアスポーツ体験で、ガッツリ登山をやっているキャンプはうちしかなかったというオチですが…

今回の効果予測要因以外にこだわりのあるキャンプはそれはそれでいいと思うし、今回の尺度に含まれていない効果をねらいとしているキャンプもたくさんあると思います。ただ、今自分がこだわっている何かに、「なぜ」の解がない方は、もう一度そのこだわりと効果の因果関係をロジカルに考えてみるきっかけなればと思います。こだわりが全くない方は、今回のデータを参考に、いいキャンプを作っていきましょう


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