自然体験の質を下げる日本人の10の観光行動

またまた、過激なタイトルですみません。LNT_USの花形事業の一つであり、アウトドアレクリエーションによって起こった環境破壊、観光公害をLNTのアイディアによって解決しようとするホット・スポットというプログラムが、いよいよこの秋からスタートします。このスタートにあたり、LNT導入によるビジターの環境行動の変容をどうしたら捉えられるか、LNTJ理事である筑波大学山岳科学専攻の呉羽先生と情報交換したところ、面白いアイディアをいただきましたの共有します。

日本人の観光行動の伝統

1物見遊山周遊型
2季節敏感型
3ブーム便乗型
4一時期集中型
5短期滞在型
6豪華満喫型
7旅の恥はかき捨て
8観光は遊び
9常に活動型
10お客様は神様型

引用:Kureha M.(2022)Traditions of Japanese Tourism Behavior, Kureha’s Brain 135(6).

1物見遊山周遊型

こちらは、パッと見て、満足して、すぐ次の観光に行ってしまうタイプの観光スタイルです。その結果観光地に落ちるお金は、駐車料金、お土産、ローカルファストフードと安価なもの。宿泊業は衰退し、もうかるのは旅行会社だけ。そもそもこの観光スタイルに、土地に対する理解や愛着も生まれませんよね。

八重山では、石垣の一人勝ちで、それ以外の離島は、石垣からの日帰り弾丸ツアーで、結局は数時間で完結する観光しか成り立ちません。それどころか、一つでも多くのものを見たいと、自然とガイドの運転や、レンタカーのスピードは上がります。これにより命を失った野生動物がいなかったと願いたいです。

2季節敏感型

日本ほど、ダイナミックに四季が移ろう国はありません。その変わり目変わり目は、桜に、新緑、紅葉と、確かに息を呑むほど美しい自然の景色が繰り広げられます。その結果、一年に一度しか見られないその瞬間にどうしても、人は殺到してしまうのでしょう。

ホットスポット第一号は、栗駒山の紅葉時期のオーバーユースです。紅葉時期の登山口の駐車場は満杯で、そこに向かう道路はグリットロック状態です。毎年行けなくて残念ですが、栗駒の紅葉は本当最高です(と言いてしまうと3を推進してしまいそうですが)。でも、人混みのイワカガミ平には行かず、別ルートや、花山キャンプ場の周り、キノコとりで入った誰もいない林道でも、最高に美しいです。果たしてLNTによって栗駒のオーバーユースがどこまで変わるか。

3ブーム便乗型

そりゃ、人がいいって言うもの、みんなが行くところは、行きたくなってしまいますよね。ただブームはブームなので、一時は、人が集まって質の低い体験をして、物見遊山で2回目はいいやとなり、また次のブームに乗っかる。イナゴの大群に食い荒らされるのは観光地。

これは、特に今の時代のSNSの影響も大きいかと。幼少研で長年やっている那珂川リバーダウンキャンプは、コロナ禍で2年間中断して、今年3年ぶりに復活しました。そしたらとんでもない異変が。今まで誰1人としていなかった河原に、フリーのオートキャンプ、ソロキャンプの人人人。それが約18km延々と続く。もちろん直火。ゴールの御前山大橋では、元々昼は川遊びをする人がいましたが、今年はテントの鮨詰め状態。ブームの後に残るのは、河原のゴミと焼け焦げた石ばかり。

4一時期集中型

これは、日本人の休暇のスタイルです。夏はお盆に集中しつつも、若干分散傾向にあり、お盆も30%以上の人が田舎に帰省しているそうです(これは大切)。問題なのはGW。誰がこんな連休つくったの?確かに、幼少研でも、大学がまとまって休めるこの時期に花山に行っていますが、山菜取りも栗駒バックカントリーもほとんど人はいません。この連休さえなければ、一年を通じて休暇が分散するのではないでしょうか?

オーストリーで学位をとった呉羽先生曰く、フランスとドイツは、バカンスが5週間程度あり、地域ごとにあえて、そのタイミングをずらしているそうです。なるほど〜。じゃあ子供が夏休みでも大人が仕事があったら意味がないと日本だと速攻廃案になりそうでが、大人もその期間に休みをとる権利があるそうです。なるほどね〜〜〜〜〜。これが豊かな質の高い山岳観光が生まれる社会基盤なんでしょうね。こりゃいくら日本がヨーロッパの山の真似しても無理だ。

5短期滞在型

こちらは観光の長さについて。コロナであれだけ分散分散といいつつ、終わってみると、結局休みをとるのは週末だけ。確かにみんな一斉に働いた方が、効率いいかもしれませし、子供が休みの週末ぐらいは一緒にいてあげたい気持ちもわかりますが、むしろ、人が働いているときに休むの良くないという日本人的な美学が大きいような。

上述のバカンスともつながりますが、有給の権利が5日というのも、ヨーロッパとはだいぶ事情が異なりそう。私はまともな仕事をしたことがないので、会社で長期休暇を取るとどうなるかなんてわかりませんが、GW以外に長期休暇は、日本ではまだまだむずいかしそうですね。1泊2日では、移動でまるまる1日取られて、午後についてい1泊して、次の日の昼には帰る。これでは、できることも限られるし、結局は質の低い休暇にならざるを得ないでしょう。

6豪華満喫型

その短期滞在の反動もあってか、その1泊だけは、豪遊したくなる気持ちもわかりますね。これが長期滞在だったら普通の人は金が持たない。

アメリカは外食がバカ高いので、出張中は、基本ベーグル、ベーコン、野菜、ビールを買い込んで、数日間もたせるという生活。そもそも若い頃から旅行は山でテントだったので、豪遊とは無縁。蝶ヶ岳の稜線で、槍穂を見ながらの生ビールが、最高の豪遊。

とはいえ、豪遊とは行かないまでも、その土地の食べ物を楽しんだり、旅行中じゃなくても、たまにはお高い食事を心ゆくまで楽しむのは、いいことだと思いますし、私もたまにそうしてます。こちらはほどほどが良いのかもしれません。

7旅の恥はかき捨て

これね。日本人にはやな思い出がいっぱいあります。外国人はなんで外国であんなにジェントルなのだろう。

ニュージーランドに半年間滞在中、ちょうど、4ヶ月が経ったぐらい?マウントクックを歩いていると、バスから日本人の観光客がどっとおりてきて、まずその瞬間に、日本人が皆同じ顔に見えて、驚いたのを覚えてるし、静かだった公園でほんとうるさいは、とにかく群れをなして行動するは、ほんと惨めになりました。祖先は鳥?これは本人たちは恥とは思っていないので、当てはまるかどうかわかりませんが、日本にくる東アジア系の方々の文句を言う前に、皆さん大丈夫って思います。

あと、最悪だったのが、日本のキャンプ関係者。向こうの学会は、ディナー付きが多く、食事を楽しみながら、キーノートを聞いたりと言うのがよくあるのですが、当然日本人参加は一つのテーブルのかたまり、食前酒で泥酔して、キーノート中に、英語のスピーチんなんてわからないので、大声でおしゃべり。日本の野外やべえと思った瞬間でした。

8観光は遊び

もちろん観光は遊びですが、日本人には遊び≠勉強という感覚が、学校教育の失敗で植え付けられています。ですので、エコツーとか一所懸命ガイド養成しても、いまいち発展しないし、質が上がらない。結局は、インパクトや派手さ重視の体験ツアーになってしまいます。

海外では、レクリーションは、Re(再)+Create(創造)というだけあり、遊びが学び、自己実現の場であるという意識がもともとあります。ですので、国立公園のレンジャープログラムは、その土地の自然についてもっと学ぼうといつも満員御礼です。

遊びにいっさい学びを入れたがらないのは、それだけ日々の生活の中で遊びがない反動なのかもしれません。仕事が遊び、遊びも仕事になると、日常も非日常ももっと楽しくなるのにね。

9常に活動型

これは、周遊型と似ているかもしれませんが、常に何か予定を入れているということです。典型的なマスツーリズムの負の行動パターンですね。今日は一日山の景色を見てのんびりなんてパックは絶対売れませんものね。

このツーリズムの下請けの観光地も、このニーズに合わせるので、数時間で完結する観光パッケージしか開発できません。数時間じゃうちのキャンプ場の白沢もいけないよ。結局白沢のような本当に美しい自然に出会う間も無く、次の活動に行ってしまい。一度来たところはもういいやなってしまうのでしょう。

10お客様は神様型

これは、観光地だけはなく、日本の経済全体に蔓延する負の精神。むしろ神は、食事を提供してくれる人、今晩とまる布団を与えてくれる人の方ですけどね。まあ、どっちが神かっていうより、対等な価値のサービスとお金を物々交換しているだけなのに、お金を払う人が神になってしまいます。私は、経済に弱いので、これが資本主義?大企業のみが勝ち組の経済構造?

LNTを導入するキャンプ場は、続々とゴミ箱を撤去しています。片付けもビジターにやらせます。その結果、ビジターの自然体験のスキル、環境意識は高まり、より質の高い自然体験となっています。神様扱いの結果、ビジターの体験の質は下がり、スタッフの負担も増え、誰も幸せになれません。三波春夫さんは、そんな世界にするために言ったのではないと思います(誰も知らねーか)。

LNTと日本人の観光行動

こうしてみると、LNTによって、この長く深く染み付いた日本人の観光行動に大きな風穴を開けられるように思います。まず分散型の旅行で、いくつかの課題は解決します。ミニママイズの哲学に豪遊はありません。他にビジターへの配慮は、どんな恥もかき捨てないでしょう。LNTを通じて遊びの中に学びも見つけてくれるはずです。

呉羽先生のこのアイディは、まだ理論としては体系されいませんが、単にLNTに関わる環境行動だけではなく、LNTがのこの日本の観光の質を下げている、日本人の観光行動にどのくらいアプローチできるか、ワクワクしますね。

あとは、このスキームで出来上がった、旅行会社、観光地、観光地の行政が、どこまで、腹をくくれるかでしょう。来てほしくない人は来させない、来た人はこうなってほしいという、地域主導の観光が、実は本当に、地域の魅力を伝え、観光の質を上げ、日本人の観光行動をいつの日か豊かにしていくのではないかと感じます。

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