LNTホットスポットサイト訪問:ピナクルマウンテン州立公園

ピナクルマウンテン州立公園

ピナクルマウンテン州立公園は、アーカンソーの州都であるリトルロックの都心から車でわずか30分という手軽さで、リトルロック市民の憩いの場となっています。州立公園とは、国立公園が連邦政府直轄に対して、州ごとに管理されている公園です。全米の州立公園を統括する州立公園管理協会は、国立公園同様に2008年にLNTと連携協定を交しています。ただLNTの導入の程度は、予想するに公園ごとにまちまちでしょう。アーカンソー州だけで53の州立公園があるので。

ピナクルマウンテン州立公園は、北側をアーカンソー川に面し、東西に3km程度のこじんまりした公園です。ビジターセンターは、公園中央北側にアーカンソー川を見下ろせる高台に一ヶ所あります。公園のシンボルは、公園西側にそびえるピナクルマウンテンで、リトルロック市のアイコンともなっています。ビジターセンター周辺の緩やかな丘陵が主にマウンテンバイクのトレイル、ピナクルマウンテン周辺はハイカーのトレイルとすみ分けられています。あとは公園南側を流れるリトルマウメル川のパドリングですかね。

今回視察したのは、ホットスポットの対象となった、ピナクルマウンテンに西側から登る「ウェストサミットトレイル」でした。このトレイルは、トレイルヘッドに駐車場や施設が充実しているのと、東側に比べ斜度が緩いのと、なんといっても公園のシンボルであるピナクルマウンテンに登ることができることから、公園内でダントツに利用者の多いトレイルとなっています。

ホットスポットプログラム

「ホットスポット」とは、アウトドアレクリエーションによってダメージを受けた地域を特定し、そのダメージを回復し、二度と再発しないように、地域固有の問題に合わせ、LNTによって解決を図るプログラムです。現在全米で100ヶ所以上の公園が登録されています。原則5日間のプログラムで、1日目は問題の同定、2、3日目は公園レンジャーや地域のステイクホルダーに対するトレーナーコース。4、5日目に問題解決のために具体的なアクションプランとなっています。

ピナクルマウンテンでは、2015年、2017年の2回にホットスポットが行われており、ウエストサミットトレイル周辺の、①トレイル拡張、②ゴミ、③ペットの糞の問題が、その登録された理由でした。

現在の公園の様子

結論から言いますと、これでホットスポットだったら、日本全部がホットスポットというくらい、ゴミもなく、快適で、気持ちのよいトレイルでした。もちろん、ホットスポット後なので、それによって解決されているのかもしれませんが、それでもなお、かつてそこまでひどい状態だったとは想像できません。それでは、①トレイル拡張、②ゴミ、③ペットの糞について、解決策と改善状況を、無理やり絞り出して、チェックしていきましょう。

トレイル拡張

ピナクルの名の通り、山頂まで急斜面のつずら折が続きますので、ショートカットがなくはないなといったとこでした(写真1)。2017年から5年経っているので、かなり回復してきているのでしょうか?

ショートカットが起こりそうなところでには、写真2のようなワイヤーが設置されており、原生的な雰囲気をぶち壊します。これがLNTの指導だったらセンスないなあって感じです。予算の問題でしょうか。

ピナクルマウンテン上部は、北アルプスよろしくと言っていいほど、ガレ場となっており(写真3)、むしろこっちのことかなあとも思います。日本同様にガレ場では、トレイルに黄色のマーカーがついていました。これはおそらくホットポット前から。みなさんもガレ場でトレイルを外して、危ない目にあったことはありませんか?かくいう私も、調子良く下っていたら思いっきりトレイルを外していました。

ゴミ問題

トレイル上のゴミは、深追いすればなんとか見つかる程度で、皆無と言っても過言ではありません。

トレイルヘッドの公園に、ゴミ箱があることは一般的ですが、トレイル上の五合目あたりに、写真のゴミ箱が設置されていました。まあまあ新しいので、ホットスポットの前からなのか後なのかは判断つきませんでした。もし、ホットスポット後だとしたら、これもセンス無いなあって感じです。山の中でめちゃくちゃ違和感がありました。

ただ、ここを訪れる人に、登山者はほぼおらず、ピナクル市民が散歩や、エクササイズに来るとった感じです。そのため、それらの人をエデュケイトするインターフェイスがないので、現実的な結果なのかもしれません。

ペットの糞

糞問題に関しては、こちらも全くの皆無です。粗探ししながら山登るのも嫌だったのですが、全く見つかりませんでした。もちろん、トレイルの横に落ち葉に隠されたら見つかるはずもありませんが、少なくともビジュアルインパクトはゼロです。つくばのうちの周りの方がはるかに糞だらけ。

LNT原則6ではペットは家に置いてこようですが、こちらは一緒に散歩を楽しんでくださいと言った温かい印象を感じました。トレイル上でも犬の散歩に会いましたし、帰りの駐車上でもスタンバっていたワンちゃんに会いました。

トレイル入りぐには、糞を持ち帰るためのビニールが準備されており(写真2)、ペットと飼い主にこんなに優しい公園は見たことがありません。上の看板は新しいのですが、下のビニール箱は絶対5年以上は経っています。ここまでしても、問題になるくらい糞をそのままにしてたのでしょうか?

また、アーカンソーは南部で内陸なので、夏は相当暑くで乾燥しているだろうなあって思います。写真3は、「このトレイルでたくさんの犬が脱水症で死んでます!十分な水と休みを」という看板です。こちらも犬の散歩ありきの情報ですね。

まとめ

朝イチということもあり、ビジターも程よくおり、本当に気持ちの良いハイキングを楽しむことができました。スエット手ぶらの人もいれば、70歳越えのおばあちゃんグループもいれば、メディテイターもいれば、犬の散歩もいるなど、本当に市民が思い思いのスタイルで公園を楽しんでいる様子がうかがえました。また、ハイキングだけでなく、トレイルヘッドには十分な広さの駐車場と、十分な数のピクニックテーブル(BBQグリル付き)があり、もうちょっと暖かくなったら、市民の憩う姿が容易に想像つきました。

日本だと、人気のあるところにはすぐに売店ができたり、駐車場が有料になったりと、ケーブルカーがかかったりと、お金を払わなければ楽しめない仕組みを作っています。BBQも有料、焚き火も有料、利用者はなんの疑問もなくそこにお金を落とす。

確かに、日本の山の開山は山岳宗教で、現在も山の中にお寺や神社が立つところが多いので、必然的にそこに人が集まり、商売が発生してきた背景があるのかもしれません。また、日本の低山は古くから、四季折々の自然を愛でる場であり、筑波山なんかは奈良時代から、歌会を開いたりと、市民で賑わっていたそうです。よって商売が成り立つ。

お金を払ってしまうと、安全も環境も全部プロバイダー側の責任になるので、ビジターは自ら考え、自らLNTの行動を起こすチャンスを失い、なかなか自立したアウトドアユーザーは育ちません。

アメリカの自己責任の文化が、LNTが必要となるような環境問題が起こった原因かもしれませんが、自己責任にLNTという野外倫理が実装された時に、こんなに素晴らしい都市化の公園が残るのだろうなあと感じました。

過剰なサービスをせず、ありのままの自然を提供することが、利用者が自らの楽しみ方を見つけ、自分にも環境に責任を持って公園を楽しむことのできるビジターを育てるんだろうなあと感じました。

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