フィリピンのLNT

第11回目を迎えるWEAJカンファレンス。昨年からLNTJのカンファレンスともジョイントし、名称をアウトドアリーダーシップカンファレンスと改め、より広範囲なアウトドアプロフェッショナルを対象としたカンファレンスとなりました。昨年のLNTカンファレンスでは、設立初年度ですので、そりゃあLNTからスピーカーを招聘しないとまずいよねということえ、本部から副代表のスージーさんをお招きしましたが、今年は、私自身の念願でもあった、アジア各国からのLNTリーダーを招くことが実現しました。

今回は、本部紹介に頼らずに私の狭いネットワークで、信頼関係の連鎖を活用し、中国、台湾、フィリピン、マレーシアからのゲストを招くことに成功しました。台湾は、お馴染みグアンとの長年の連携により、台湾でのLNTの発展はよく理解しています。また、中国もビジネスパーナーのテリーとのつながりにより、よく情報は入ってきています。一方、フィリピン、マレーシアは未知の世界。私が、つたない英語で、なぜ通訳できると言ったら、彼らの国の野外をよく理解しているから。LNTの導入、発展は、その国の野外を理解していない限り、解釈することはできません。そこで、4月末に、フィリピン、マレーシアのゲストを訪問する、弾丸ツアーに行ってきました。

フィリピンという国

フィリピンには、実は小学生のころ、ロータリアンの父に連れられて、家族で一度訪れたことがあります。その時の微かな印象は、同じロータリアンの家ですから、たくさんの使用人がいて、我々がベットに寝ているのに、彼女たちはソファーや床の上に寝ていて、なんでこんに同じ人間なのに、貧富の差があるんだろと、そんなことが印象に残っていました。それから40年、いまだにスラムや路上で寝ている人はいるものの(うちのオフィスのまりも似たようなもの)、そこにはリベラルで、明るくて、エネルギーに満ちたフィリピンを感じることができました。

フィリピンの国土は、日本の約8割ぐらい、海岸線の長さは世界5位と、6位の日本よりちと長い。人口は、1億1千万と、日本が抜かれるのも目前。さらに15歳以下の未就労人口が30%と、日本の11%の日本と比べると、絶賛爆伸び中の国です。さらに、ホスピタリが高く、陽気で明るく、女性が元気。むしろ女性が何々というような、ジェンダー的な発想がなく、リベラルな国民性を感じました。台湾もそうだし、伸びてる国は、みんなリベラル。

アウトドア環境で言うと、世界6位の海岸線は、約30%が人工海岸の日本に比べ、ほとんどが自然海岸で、かつオールトロピカルとくれべ、海洋観光資源は言うまでもなく世界有数ですが、実は、山岳環境も、地形学的には日本と似ているので、山岳大国であることがわかりました。よって、世界的に見れば海洋レジャーが有名すぎますが、国民にとっては、ハイキングもめちゃくちゃポピュラーなアウトドアアクティビティです。

リト・デ・ビテルボという男

今回のカンファレンスでお招きするリトとは、2020年2月に、LNTJ設立に向け、LNT本部を訪れた際に、紹介され、その後Facebook繋がりました。その後彼の投稿にはいつもLNTキャラバンをフィリピン各地で開催したり、とある島を徒歩で130キロ歩きながらLNTのプロモーションをしたりと、鉄人系の投稿にいつも刺激を受けていました。

彼の本職は、アメリカ資本の会社で働くエリートで、野外プロフェッショナルではありません。よくよく聞くと、彼のLNTに関するアクションは、すべてボランティアで、経費のほとんどを自分で出しているこのことです。ただ、彼のアクションに共感し、アメリカのバックパックメーカーである「ドイター」や、フランスのアウトドアショップのフランチャイズの「デカスロン」が、彼のギアをサポートしたり、上述の130キロを、フィリピンのアウトドアブランドである「ラガラグ」がサポートしたりと、フィリピンでLNTといえばリトというぐらい有名な、フィリピンのミスターLNTです。

彼は、2019年にアメリカの「アパラチアンマウンテンガイドクラブ」でマスターエデュケーターをとり、2020年から国内でLNTの普及をおこなっています。政府にも、国立の公園のガイドの育成を依頼されているそうですが、すべてボランティアです。彼は個人的に訪れた国立公園や観光地で、ガイドたちにLNTトレーコースやワークショップを開催し、ガイド育成をこなっています。

彼のアクションに賛同して、集まったメンバーもなかなかの方々で、1回目のトレーナーコースの受講者であるエルウィンは、ボーイスカウト所属で、政府系の救急救命機関で働いている登山家で、2回目のトレーナーコースの受講者であるリズは、同じく政府系のビザの取得をサポートする会社勤務するバリバリのキャリアウーマンで、いずれも野外のプロではないにしろ、知性とLNTにかけるパッションがバンバン伝わってくる方々でした。

フィリピンのLNT

今回、フィリピンの国立公園の現状視察として、マニラから80キロほど北部にあるアラヤット国立公園を訪れました。国立公園のメインはなんと言っても、国立公園のシンボルであるアラヤット山登山です。登山口がいくつかあり、それぞの登山口にガイドステーションがあり、そこでガイドを雇わないと素通りできないシステムです。そもそもフィリピンの山に、トレイルの示された地図やハイキングマップがなく、ガイドを雇わないとトレイルもわからないといったシステムです。彼らは環境省から認証を受けており、全国で100団体ぐらいのガイド協会があるそうです。

アラヤット山登山は台形の山容をしており、4つのメインピークがあり縦走もできるのですが、今回は往復時間が一番少ない上にシンボリックなピークである、ピナクルピークに登ってきました。登山口で、ガイドステーションで、フィリピン人30ペソ、外国人100ペソの入山料を支払います。日本円で、70円と230円といったところです。発行は日本でいう環境省と、地方自治体。ガイドに対しては、1000ペソ(2300円)なので、フィリピンの物価からするとまあまあです。

登山口には、リトがLNTをとってくる前からある環境省の看板にも、LNTの説明がありました。ただし7原則の記載はなく、環境配慮のガイダンスのみ。「とっていいのは写真だけ」「残していいのは足跡だけ」「つぶしていいのは時間だけ」の3つの標語もなかなかシュールだなあと思いましたけど。リト曰く、LNTという言葉は以前から知られていたが、おそらく意味はあまり理解されずに使われていたとのこと。一方で、LNTのニューロゴを使った7原則のボードは、なんとリトの手作り。もちろん、ガイドステーションの了解を得てのことですが、国立公園内で、個人が手作りで看板を立てられることが寛容なフィリピンらしさ。

まとめ

フィリピンでは、環境省公認のガイド業は成立しているものの、民間のプロフェッショナルのアウトドアガイドに成立にはまだまだ時間がかかりそうです。一方で、低額のアウトドアリテイラーである「デカスロン」の進出により、アウトドアレジャーを楽しむ人口も一気にふえ、もともとゴミを捨ている習慣があることから、環境へのインパクトは待ったなしです。リトのチームはいわゆる山岳会に所属しているメンバーで、訪れた山域の国認定のガイドにボランティアでLNTを教育しています。彼が活動を開始して、まだ4年。彼が育成したトレーナーは全国に約20名。ガイドの質を見る限り、国の研修内容にもまだまだ課題。アジア各国にLNTの動きがあれば、リトの活動が、一気に国家政策になるのではないかと思わせる情熱を彼らの活動から感じました。