フィリピンに続き、弾丸でマレーシアにも行ってまいりました。マレーシアとのつながりは、昨年台湾で行われたアジア冒険教育カンファレンスにて、同じゲストスピーカーとして、招聘されたマレーシアプトラ大学のエブリン・イープとの出会いがきっかけでした。彼女はニュージーランドの大学でPh.D.をとり、大学で野外教育を指導するマレーシアの野外の今後キーウーマンとなる女性です。彼女自身LNTのトレーニングを受けているわけではなく、まだ大学に勤めて間もないため、まだまだマレーシアのLNTのことはよくわからないとのことで、マレーシアのLNTを語る上でトップ中のトップを探してくれましたが、誰に聞いても上がる名前が今回招聘するブレンドン・チーです。彼を知れば知るほどまさにマレーシアでは無双の存在。今後アジアの野外でもとても大切な人材となる男でした。
マレーシアという国
マレーシアは、マレー系マレー人、中国系マレー人、インド系マレー人が、6:2:1+アボリジニという構成で、ほぼその構成比で、イスラム、仏教、ヒンズーが融合しているユニークな国家です。今回情報交換した方々のみの印象ですが、官僚、大学幹部はマレー人、ビジネス、リテイラーはチャイニーズといった印象を受けました。ちなみに上述のエビエリンとブレンドンはチャイニーズマレーシアンです。
国土はマレー半島の膨らんでいるところと、お隣のボルネオ島の北西半分からなっていて、ボルネオにはご存じ東南アジアで一番高いキナバル山があるほか、半島にもタイから伸びる大山脈あり、フィリピン同様、トロピカルに見えて実は山岳国家です。ちなみにマレーシアの語源は「山の多い土地」を意味するマラヤとか。
国土全体が亜熱帯のジャングルかと思いきや、多くの面積が、パームツリー(ヤシの木)の畑となっています。ブレンドン曰く、昔は現在のフィリピンのような果物の生産が主要産業だったのですが、その結果土地が痩せ、もうパームツリーしか育たない土地になってしまったとか。また、この木は1本が1日に約200リットルの水を吸収するので、必然的に慢性の乾燥状態。この長い間の農地化が原因で、多くの希少種が絶滅危惧種になっているとか。バクもその例外ではなく。
首都であるクアラルンプールの発展はいうまでもなく、日本のショッピングモールでは見かけない、ヨーロッパ、オーストラリアのブランドが数多くありました。もちろん日本、中国、韓国、台湾らしいブランド、飲食店も多く、アジアにいながら世界中を楽しめるといった感じでした。
フィリピン同様、低額のアウトドアリテイラーである「デカスロン」が大々的に進出しており、これにより、より多くの人たちがアウトドアに出かけるようになったというのは日本と同じ現象。ただ、このアウトドアブームが後押して、専門のアウトドアショップの出店も、相次いでいる様子。そのうちの一つにお邪魔しましたが、愛用のラ・スポルティバをはじめ、しっかりしたブランドを扱っており、中でも、フィリピン同様、オーストラリア発のSEE TO SUMMITがかなり幅を利かせていました。
ブレンドン・チーという男
彼を知れば知るほど、私と似たバックグランドで、同じくマレーシアのアウトドア産業の確立を目指しています。彼の学士と修士はITで、その後大学でITの講師を務めていたそうです。その間アウトドアに目覚め、大学をやめオーストラリアで、野外のPh.Dを取得しました。その後大学に戻ることなく、民間でキャンプ場を経営しながら、LNTや野外救急をマレーシアで広めています。彼のLNTのトレーニングはNOLSで、アジアでかず少ないNOLSの修了者です。また、野外救急はWMAのイントラですが、なんと東南アジアのWMAは、アメリカ直轄ではなく中国が間に入っているとかで、その不合理さから、マレーシア独自の野外救急資格の発行団体を医師と連携して立ち上げるという。
また、今回本当にたくさんの方々に彼のネットワークで繋いでいただきました。プトラ大学のエコツーリズムの担当教員、林野庁の自然公園担当官、自然系化粧品会社のアジアマネージャー、国立公園のディレクター、アウトドアリテイラーのグループなど、私のための連絡をとってくれたのかもしれませんが、彼の人脈の広さと、信頼度は目を見張るものがありました。
Ph.D.、NOLS、野外救急団体設立、産官学すべての専門家に精通するなど、どれをとっても彼の経歴は超一流です。謙虚な彼は、日本の野外はすごく発展していると信じてくれていますが、彼レベルの野外の指導者は、日本ではなかなか出会えません。
マレーシアのLNT
マレーシアには、5つの連邦政府直轄の国立公園と、20の州立公園があり、今回5つのうちの一つであるタマンネガラ国立公園を訪れました。KLから車で4時間程度で、ちょうどマレー半島の中央に位置します。面積は国内最大の自然公園で、ちょうど山梨県の面積ぐらいで、全てザッツレインフォレストです。観光客が訪れることのできるは2箇所しかなく、今回は公園最大のKL側にあるゲートウェイを訪れました。
公園に入るには川を船で渡るしかなく、ここである程度入園のコントールができます。渡船料は一回1リンギット(MHR)。園内に上陸すると、すぐにビジターセンターがあり、ここで入園料1MHRと、カメラ(含む携帯)持ち込み料5MHRを支払います。1MHR=30JPYなので、合わせて180円。残念ながら、LNTの文字を目にすることはありませんでしたが、ブレンドン曰く、ボルネオ島のバコ国立公園やキナバル国立公園では、LNTの導入もかなり充実しているとか。なんか公園ごとに方針を決められるのがいいですね。
マレーシアのLNTはブレンドンを中心にまさにこれからといったことろでしょう。国内独自の野外救急法の資格がある通り、野外のプロバイダーでは、これらの資格がスタンダードになりつつあります。ブレンドンも、まだどのようにLNTを展開しようかと考えているところに、日本からのコンタクトがあり、これを好機と捉えていました。ちなみに上述した、林野庁の自然公園担当官との会合で、すべての自然公園ガイドを対象にLNTのオンラインワークショップを私が行うこととなり、うまくハマれば、ブレンドンにとって大きなビジネスチャンスになるのではないかと考えます。
また、野外指導に関して、業界資格がなく、NOLSの資格を出すところまでは行っていないブランドンと、大学でインセンティブを与えたエブリンは、WEAのカリキュラムにむしろ興味深々で、LNTや野外救急法がゴールではなく、野外指導のための前提であるというWEAや私の考えも、すとんと腑に落ちてくれました。まだ、野外指導に関して真っ白な国だけに、WEAやLNTの導入に強い手応えを感じました。