いつもと違うWEA国際コースを深掘りする

約10年に一度の夢のコース、過去2回と素晴らしい成果を収めてきた日本とアメリカの学生の合同によるWEA国際コースが、2024年2月12-22日、アーカンソー州ニボ山州立公園で行われました。ただ、今回は過去2回と少し様子が違う?そんなギャップを深掘りしてみました。

目次

・WEAインターナショナルコースの歴史
・2024アーカンソーコース
・舞台は周囲5キロのニボ山
・メニューオペレーション8日間
・アメリカ学生のいないインテグレーションコース

WEA国際コースの歴史

WEAJでは、その前身も含め、過去2回日本人学生とアメリカ人学生のインテグレーションコースを開催してきました。それは日本だけではなく、アメリカのWEAにとっても、言語によるコミュニケーションに限界がある生徒に確実に学びの結果を残さなければならない大いなるチャレンジの歴史でした。

2003グランドティトンコース

主催:奈良教育大学
協力:オクラホマ州立大学
日程:2003年8月
場所:グランドティトン山脈
参加者:日本7名(奈良教育大学、明治大学)、アメリカ5名(オクラホマ州立大学)
指導者:クリスキャッシェル、スコットジョーダン(オクラホマ州立大学)
通訳:吉野愛子、林綾子(インディアナ大学)
アプレンティス:岡村泰斗(奈良教育大学)

2013アパラチアンコース

主催:WEAJ設立準備委員会
協力:ラドフォード大学
日程:2013年3月
場所:アパラチアン山脈
参加者:日本5名(奈良教育大学、明治大学)、アメリカ5名(ラドフォード大学)
指導者:マークワグスタッフ、アンニャホワイティントン(ラドフォード大学)
指導権通訳:岡村泰斗(WEAJ設立準備委員会)
アプレンティス:濱谷弘志(北海道教育大学)、西島大佑(鎌倉女子短期大学)、豊田啓彰(WMAJ)

2024アーカンソーコース

今回は、2022年にWEAJカンファレンスにお招きしたジョーマイヤーの寄付により運営されたコースであったため、アジアからの参加者は参加費無料のコースとなりました。そのためか、日本から直前に2名キャンセルが出てしまったのも、今後課題を残すコースとなりました。

主催:WEAJ
協力:GTGアウトドア、アーカンソー工科大学
日程:2024年3月
場所:ニボ山州立公園
参加者:日本3名(INAC、ひの社教)、台湾2名(国立台湾体育大学)、マレーシア1(WI)、フィリピン1(LNTP)、アメリカ1(アラバマ州立大学)
指導者:ジェイポスト(アーカンソー工科大学)
指導権通訳:岡村泰斗(WEAJ)
アプレンティス:ゲイブガーメロ(GTGアウトドア)、ウェイソン(上海山海明心)

舞台は周囲5キロのニボ山

今回のフィールドは、周囲5キロほど、標高1300mのテーブルマウンテンで行われました。さらに山頂部のプラトーには、民家が立ち並ぶという。これまでのグランドティトン山脈やアパラチアン山脈に比べるとあまりにもスケールが小さい。アーカンソー州には確かに大きな山はありませんが、近くにはバッファローリバー国立公園という、東京都がすっぽり入るぐらいの川のフィールドもあったはず。今回のこのフィールドの選択を深掘りしましょう。

未知の参加者

今回、日本だけでなく、中国、台湾、フィリピン、マレーシアと、様々な国から参加があったため、ポートフォリオである程度はアセスメントできているものの、現実的な野外のスキル、体力を保証するには限界があったかもしれません。そのため、一旦避難となると、難易度の高いウィルダネスエリアよりも、自動車でアクセス可能なフィールドを選んだのは、セーフティサイドの判断だったのかもしれません。逆に、自分は「大丈夫っしょ」ってついついウィルダネスエリアを選択しがちでちですが、同じ結果に対するより安全な選択肢を忘れてはいけませんね。

大学業務

日本の学生は後期の終わった2月ですが、アメリカでは春学期の真っ只中。そんなタイミングでアメリカの大学教員に依頼するこちらも悪いですよね。でも2月の学会時期を外したら、私の旅費を誰が出すのという問題もあるし。リードインストラクターにとっては、大学の業務を行いながら、彼の授業をニボ山の実習にアレンジしながらのコースでしたので、必然的にアーカンソー工科大学の学生が通える範囲になったのでしょう。

指導者スキル

今回お願いしたリードインストラクターが、そもそも8日間の遠征の指導実績がないとのことでした。また、大学にそのための装備も持ち合わせおらず、もっぱらデイプログラムの指導が中心とのこと。そのため、民間のプロバイダーであるGTGアウトドアに参画してもらい、装備や遠征のマネジメントを全て行ってもらいました。結果として、経費のほとんどがGTGに支払われる結果となりました。はっと、自分を振り返った時、年間を通じて8日間の遠征をやっているかと言われると実は皆無です。WEAコースのアドバンスは、5日間だし、2003年のグランドティットンの10日間の遠征以降、その長さの遠征指導はありません。6+1以来のWEAコースに長期遠征が必ずしも必要なくなったなど、時代に合わせて変わっていくことは良いことだと思いますが、自分も含め古き良きWEAウェイをいつでも指導できるように備えなければなりません。

メニューオペレーション8日間

今回8日間×3食=計24食をメニューオペレーションで行いました。加えて、一食ごとに一人分を小分けにする方法とったので、ジップロックの量と、パッキングを終えた後の食料の量は凄まじいものがありました。当然バックパックに入るはずがなく、コンテナに入れて車に保管するという方法となりました。

一つの方法として

メニューオペレーションvsバルクオペレーションは、どっちが良い悪いではなく、適材適所使い分けましょうという方法論の違いです。その点、今回の方法は、ディハイドレーションフード(乾燥した食料)をミックスして、お湯をかければすぐに食べられる状態にしたインスタントフードを何種類も作りました。それもこれも、アメリカがディハイドレーションフード天国だからこそ。米、パスタ、大豆、マッシュポテトなど、お湯で戻せる食材の種類が豊富。24食分、食事の組み合わせてなんとなく異なったメニューができるのもうなづけます。ハイキングの昼食などには、むしろ新鮮で興味を持たれるかもしれません。

時間、食器、燃料

ディハイドレーションフードの調理といえば、お湯を沸かしてかけるだけ。中サイズのジップロックに入った食材を自分の器に入れ、お湯をかけるだけなので、食器も汚れることなく、片付けの時間も必要ない。燃料の長期の遠征で考えたら、省エネな方法と言えましょう。専門店で売っているフリーズドライの食事を、自作するようなものなので、山に向いていないわけがありませんね。

食材選びの原点回帰

ディハイドレーションフードは、まさに山の究極の食材といえましょう。日本だとそもそもディハイドレーションフードにバリエーションがないことや、手に入りににくいことなどから、できる限り水分含有量の少ない野菜や、缶詰などを選択せざるを得ませんが、いずれもベストではありません。野外をこれから学ぶ学生には、山の食材の原理原則を知る上で、ディハイドレーションフードに触れられたのはよかったことかもしれません。

アメリカ人学生のいないインテグレーションコース

このコースの元々の建て付けは、日本の学生とアメリカの学生のインテグレーションコースだったのですが、フタを開けてみるとアメリカの学生はゼロ。唯一参加してくれたアメリカ人はアラバマ大学の歴史学者という。今回この無料コースのメリットをより多くの若者にということで、アジアの仲間にも声をかけ、各国から集まってくれましたが、もしそれがなかったら日本人だけでなぜかアメリカに行ってWEAコースをするという考えたくもない結果となるところでした。

アジアのネットワーク

とはいえ、今回参加してくれたアジアのメンバーは本当に素晴らしかったです。英語はもちろん、野外の技術も、ティーチングも、人間性も素晴らしく、日本の学生にもとても良い影響を与えてくれました。一方で、彼らも、日本のWEAやLNTの動きには大変高い評価をしてくれており、日本から学ぶ姿勢もまだ持っています。かねてより、アジアの野外は進んでいるよと周囲に漏らしていますが、こういったアジアのコラボレーションは毎年でもやってあげたくなるような、うらやましくなるようなネットワークが野外の若者たちにできました。

アメリカ人参加者

今回、リードインストラクターの大学授業のいくつかを、ニボ山で行いました。トレイル整備、インタプリテーション、LNTなどの授業を、WEAコースのメンバーと共有しましたが、正直、この学生の誰かが仮にコースに参加したとしても、コースの質を落とさざるを得ないなあと思えるような学生でした。補講目的で数日間一緒に活動するはずだった女子学生は、キャンプ生活のストレスに耐えきれず下山する結果に。アジアのメンバーからするとやっとアメリカの学生がと思った途端離脱という。。。今回アメリカ人学生が誰も参加しなかったのには、いろいろな理由が重なっていると思いますが、一つは、アジアのために、コースの質を維持するためだったかもしれません。

アジアの力

今回のコースがかろうじて良い結果を残せた最大の理由は、アジアの学生たちの存在です。まず彼らとのコミュニケーションが英語でなければならないことから、かろうじて国際コースの体をなしたといえましょう。それ以上に、野外スキルを学ぶ姿勢や、人間関係スキルなど、言葉の壁で途中シャットダウン気味になった日本の学生に対して、素晴らしいロールモデルとなってくれました。国際的にはアメリカの野外はピークアウトしたと考えられています。今回のコースではその現実を体感したように感じます。一方で、これからの成長著しいアジアの若者たちが、それに合わせる必要はありません。良いところは学び、残すところは残し、欧米がまだ見ぬ野外の発展を遂げれば良いと思います。アジアの中にいるだけでは感じられない、アジアとアメリカがコラボしたからこそ見えてくる未来を感じることのできたコースでした。

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