メンタルヘルスファーストエイド

初のアジアAEE報告第1報告として、プレイベントとして行われたメンタルヘルファーストエイドスタンダードコースについて報告します。メンタルヘルスは、北米の野外救急法の業界基準であるSOPにもすでに選択として加わっており、WMTCにも2022年のカリキュラムから導入されました(WMTCブログ)。現在国内のWFAでもカリキュラムに導入されていますが、もともとタイトなカリキュラムの中、30分のレクチャーで完結するかなく、自分なりに工夫はしていますが、プロバイダーとして少々消化不良(受講者はなおのこと)のとこもあり、今回の受講の動機となりました。

メンタルヘルスファーストエイドとは

メンタルヘルスファーストエイドとは、専門の医師、カウンセラーの診断を受けるまでの、一般市民によるメンタルヘルスの評価と処置の技能です。考え方としては、身体的な問題を医療従事者に引き継ぐまでの評価と処置と全く同じです。身体的な問題も初期の対応が行わなかったり、誤っった処置をすれば、生存率が下がったり、後遺症が残るように、心理的問題も回復が遅れたり、自殺、自傷などの問題の可能性が高まることから、市民による初期対応の必要性が求めらています。

学部時代に、幼少研で不登校のキャンプのカウンセラーした経験から、野外における臨床心理の必要性を感じていましたし、ドクター時代は、スポーツ心理のゼミに混ぜてもらい3年間くらい勉強会に参加したことから、野外の専門性を高めながらなかなか二足の草鞋は難しいぞということでしばらく離れていましが、2017年にNOLSが運営するWRMC(Wilderness Risk Management Conference)に参加した時に、Wilderness Mental Healthという分野があることを知り、改めて野外におけるメンタルヘルスの重要性を再認しさせられました。

ただ今回は、AEEだけあり、野外におけるメンタルヘルスかなと思い参加したのですが、内容はジェネラルなもので、野外におけるリアリティとは少し乖離した内容ではありましたが、基礎、まさにファーストエイドという点では、参加者のメンタルヘルスの責任を預かることの多いディレクターとして、メンタルヘルスを教授する野外救急インストラクターとして、基礎を抑えることができました。

カリキュラム

プロバイダー

今回のプロバイダーは、オーストラリアにある、Mental Health First Aid Internationalという団体です。Internationalとありますが、アメリカにも別団体がありますし、改めて調べはしませんが、すでに国際的に何団体もあるのかなと想像します。日本にもすでにオーストラリアの団体のブランチがあり、精神科医が中心となり組織され、市民に対する普及が進んでいるようです。何も香港までいって、英語で勉強しなくてもって感じでしたね。

講師

講師は、AEEの会場となった、小中一貫のインターナショナルスクールであるISFアカデミーで、教員養成を行う職員でした。まず、学校が、教員養成の機能を持っていることに驚きと、その職員が、メンタルヘルスのインストラクター資格を持っていることにダブルの驚きです。日本だと、教員養成機関が確立されているため、学校現場での教員養成は考えもしませんでしたが、インターナショナルスクールで働く外国人たちの教員資格はどうなっているのでしょうか?日本のインターナショナルスクールが気になるところですね。いずれにせよ、世界は、学校の先生が全員メンタルヘルスのトレーニングも学校内で受けているということです。

カリキュラム

コースにはインパーソンとハイブリッドの2つがあり、インパーソンは12時間、ハイブリッドはオンンライン学習+インパーソン4時間とお手軽な仕立てでした。今回は12時間のインパーソンを、4時間の3日間に分ける内容でした。コンテンツとしては、鬱、躁鬱、不安障害、パニックアタック、PTSD、統合失調、精神障害、薬物使用でしたが、3日間を通じて、1日目鬱、2日目パニックアタック、3日目精神障害がメインといった内容でした。3日目にちょこっと触れた薬物でしたが、参加者の多くが、一部薬物合法の東南アジア、カナダ、オーストラリアからであり、みなさんめちゃくちゃ詳しく、一番盛り上がった単元であり、改めて世界とのギャプを感じました。ウェスタンのカリキュラムだけあり、ディスカッションあり、ワークシートあり、シミュレーションありで、WMTCのメンタルのヘルスの単元の厚みを増す大いなるヒントとなりました。

野外救急とのリンク

明確なS/SXとTx

臨床心理のトレーニングを受けていた頃は、評価はメンターの「見立て」が絶対で、評価も複雑な心理テストを用いるなど、なかなか野外現場に応用できるものではありませんでしたし、時には専門家によって「見立て」も異なるなど、部外者としては、臨床心理の専門家自体に対して不信感を抱く経験をしました。もちろんこれは、市民によるファーストエイドではなく、プロフェッショナルレベルのトレーニングでしたので、今回と比較することはできませんが、改めてそれぞれのメンタルヘルス問題のS/Sx(兆候と症状)と、明確なTx(処置)を理解し、野外救急法と全く同じだなあと感じました。野外救急を指導している立場としては、とても馴染みがあり、すっと入ってくる考え方でした。

問題ごとのS/Sx

今回メンタルヘルスコースを受講してみて、改めてWMTCのメンタルヘルスのS/Sxは、あらゆるS/Sxをカバーできており、よくできているなあっと感心しました。一方で、全ての問題のS/Sxを区別なく扱っており、問題ごとにTxが異なるため、今後区別する必要性も感じました。現在では、3日間のうちの30分という時間配分で完結しなければならないというフレームワークなので、限界も理解できます。1980年代に、野外指導から野外救急が専門文化したように、いずれ野外救急からメンタルヘルスが専門分化する日がくるかもしれません。

・集団の会話、意思決定に参加しない
・メンバーとの人間関係の形成、活動参加に興味がない
・可能な時は一人になりたがる
・グループメンバーから避けられる
・定期的に不安、おびえが現れる
・すぐに怒ったり、不適切な批判をする
・会話が散漫で、不自然にゆっくり、もしくはとりとめなく話す
・悲しさ、不幸せを訴え、突然泣き出す
・食欲がない、もしくは食べすぎる
・他のメンバーが異常であると押し付ける
・日々の行動を突然、予期せず変える
・妨害的な行為
・不自然な心理状態
・メンバー、スタッフと葛藤状態が続く
・理性を欠いた行動が続く
・原因のわからない身体的問題を訴え続ける
・日々の課題や活動に参加することができない

問題ごとのTx

同様に、Txに関しても、問題ごとに異なりす。総論としてはWMTCの示すTxの通りで良いと思いますが、パニックアタックなどは、以下のTxでは問題を除去することはできないかもしれませんね。それも踏まえて、オプションで、WMTCのコースに加えていけるとさらに良いでしょう。

・落ち着いて、安全な環境を確保する。
・傷病者の話に注意深く耳を傾け、関心を寄せる。
・問題解決、自己ケアに努める。
・傷病者とスタッフ、メンバーとの関係性を強める。
・段階的に活動を再開させる。

今後の展開

WMTCのデジタルハンドブックにも2023年にメンタルヘルスが加わりました。日本版もこの春ようやく改訂作業となり、テキストを購入された方は無償で更新できます。これに伴い、オンライン学習サイト、オンラインテストにもメンタルヘルスが加わることとなり、野外救急にメンタルヘルスは当たり前のように入る時代になっていくでしょう。WMTCでは、カリキュラムの消化を最低限のノルマとし、ファクトに基づくプラスαは、インストラクターに権限が与えられています。今回より深く理解でした、メンタルヘルス問題の固有のS/SxとTxのエッセンスを加えることと、実践的なアクティビィを創造することで、次回の更新時にはより良いメンタルヘルスの単元を提供できそうです。


より詳しくファーストエイドを理解するためにはデジタルハンドブックを参照してくだい。また、それらの知識を正しく活用するためにはWFA/WFRコースに参加してトレーニングを受ける必要があります。