みなさん、低ナトリウム症って聞いたことがありますか?実は熱中症の中の病名の一つなのですが、熱中症は、全部熱中症と言って片付けてしまう日本人にとって、とても怖い、時は、脳幹ヘルニアによって死にいたることもある怖い病気なのです。
目次
1)低ナトリウム症のMOIとS/Sx
2)低ナトリウム症の予防とTx
3)手作りORS
1)低ナトリウム症のMOIとS/Sx
電解質の働き
ナトリウム、カリウムなどのミネラルは体内に電荷を帯びた電解質といった形で存在します。電解質は細胞膜の内外で、神経伝達や物質伝達を行う上でとても大切な役割があります。
熱順化
高温状況に体が慣れている人は、必要な電解質を体内に留めておくように、体温や発汗を自動的に調整していますが、高温状況に体が慣れていない人は、汗や尿から電解質を大量に放出し、体内に電解質不足が起こります。
MOI&S/SX
このような未順化で、失った水分を補うために多量の水を飲み、かつ損失した分の電解質を食事で補わないと、体内の電解質が極めて薄い状態となり、これにより起こる諸症状を低ナトリウム症と言います。
筋組織
筋組織内に大量の水が血管によって運ばれます。血管内、細胞膜外、細胞膜内の水はつながっていて、それぞれの電解質濃度を均等に保とうとします。血管内の電解質濃度が低く、細胞膜内外の電解質濃度は正常ですので、これらを均等に保つために、細胞膜内外の電解質が、血管内に移動します。これにより、筋組織内に電解質がなくなり、筋の痙攣や攣りを起こします。体育会が昔から、「水は飲むなー」って言われていたので、組織内に水を取り込んで濃度を一定にするという判断ができなかったのでしょう(ウソです)。
脳組織
一方、脳細胞は、この体は俺たちがコントロールしてるんだという絶対的な自負があるので、その神経伝達のキモである電解質は決して手放したくありません。体育会みたいになるのは嫌なのです。そこで、電解質濃度を一定にするために、脳組織内に水を取り込み、均衡を保とうとします。その結果、脳の「腫れ」が起こり、頭痛や吐き気、嘔吐などの↑ICPと同じ症状となり、重度の場合、脳幹ヘルニアによって、失神、痙攣、死などにつながることもあります。
2)低ナトリウム症の予防とTx
予防
(1)尿の観察
熱中症の典型的なS/Sxは尿の色が濃く、量が少ないことです。これは、脱水症が由来の「熱疲労」という状態です。一方同じ熱中症でも、低ナトリウム症では、尿が透明で、量が多いというS/Sxとなります。熱疲労と低ナトリウム症は体調ではほとんど区別がつかないので、尿の色と量を観察するようにしましょう。
(2)電解質の摂取
脱水を予防するために水だけ取るのではなく、必ず電解質も一緒にとります。塩分のある食事をきちんと取ることで十分です(梅干し、塩昆布、シャケなど。日本のおにぎりはスーパー熱中症予防食)。最近では、塩分タブレットや、経口補水液(Oral Rehydration Solution:ORS)なども手に入りやすくなりました。
Tx(避難レベル)
(1)レベル4:フィールドで水分、電解質の補給が可能であり、症状が低下すれば避難の必要はありません。しばらく休んで活動再開することができます。ただし、水の取り過ぎが原因だからと言って、水分の摂取を止めないでください。今度は脱水症という問題が起こります。水分と電解質を同時に取りましょう。
(2)レベル2:フィールドで、高温状況からの隔離、電解質の補給が困難である場合、症状がどんどん悪化することを止めることはできません。直ちに緊急避難を開始してください。
(3)レベル1:意識レベルがVPUであれば、即緊急避難。
3)ORSの作り方
BCの食料計画にはいつもドリンクとして、レモネードパウダーがあります。これがじつはORS作りのカギなのです。ナルゲン1リットルに対して、塩3g程度(小さじ1/2)を水で溶かしたレモネードに入れれば出来上がりです。塩水では流石に飲みにくいのですが、レモン風味があれば塩っけもちょうどちょいアクセントになります。市販のORSより何気に美味しい。
今年の夏は、遠征の食料計画にレモネードを加えたらいかがでしょうか?誰ですか、参加者にレモネードをペロペロなめさせてなくなっちゃったインストラクターは!
より詳しくファーストエイドを理解するためにはデジタルハンドブックを参照してくだい。また、それらの知識を正しく活用するためにはWFA/WFRコースに参加してトレーニングを受ける必要があります。
楽しい夏のアウトドアトリップは、良い食料計画と、正しい熱中症予防から。