最近、よく「アウトドアリーダー」という言葉を耳にするようになりました。
BCの出版する野外指導者のためのテキストブックも「アウトドアリーダーデジタルハンドブック」だし、
BCのブログのタイトルも「アウトドアリーダーズブログ」だし、
BCの無料メルマガも「Outdoor Leaders」です。
BCの指導者養成サービスはアウトドアリーダーだらけです。
WEAの資格も「Certified Outdoor Leader」だし、
WEAのカンファレンスも、「International Conference on Outdoor Leaders」という名称を、長年使っています。
BCの周りもアウトドアリーダーだらけで、BCにとってはとても大切な言葉です。
国内で他の事例を探してみると、ジャパンアウトドアリーダーズアワード:JOLAなどもその例ですね。アウトドアリーダーの定義が見当たらなかったので、受賞条件を見ると、以下のような活動がずば抜けている人がアウトドアリーダーの鑑(かがみ)といういうわけですが、1つでも当てはまればいいのかな?大学生に登山を指導している人はどうしたらいいんでしょう?安全な海遊びを子供に提供していたら対象外?
- 子供を対象に人間教育を登山を通して実践している人
- 災害を生き抜くスキルを習得させるサバイバルキャンプを実践している人
- 子供たちの自然を見る感性を育むために心揺さぶる原体験を自然を通して提供している人
- 大学生を対象に山村活性化の担い手育成プログラムを現地の山村で実践している人
- 安全な海遊びを指導できる人材を育成している人
また、ネットで「アウトドアリーダー」検索すると、「アウトドリーダー養成」なる情報が結構見られましたが、ほぼボランティア養成で、主として班付きで子供たちの面倒を見るための研修内容のようでした。
言葉の使用は個人、団体の自由ですが、「アウトドアリーダー」という言葉には長い歴史と文脈があります。BCがどんな意味で「アウトドアリーダー」という言葉を使っているのか、それを理解することが、野外教育の産業化にとても重要だと思いますので、今回はその概念について紹介します。
リーダーという言葉の多義性
日本の場合、「リーダー」というと、大学生のボランティアリーダーを想像してしまいますよね。
これは、私の想像で申し訳ないのですが、おそらくリーダーシップという指導スキルよりも、グループの統率者という役割の意味合いで、リーダーという言葉を使ったのではないかと考えます。
これにより、キャンプリーダー、アウトドアリーダーは、学生ボランティアで、班付きの指導者という概念がほぼ定着しています。
確かに、キャンプの指導者、野外の指導者という訳で間違いありませんが、もう少し限定的に、班付きの指導者のことは、「キャンプカウンセラー」と言います。
アメリカでも、ほとんどのキャンプ場が、サマーキャンプの間だけ、特に野外を専門としない大学生をキャンプカウンセラーとしてリクルートし、キャンプを運営しています。つまり、キャンプカウンセラーというプロフェッショナル(職業)はありません。
実際に、キャンプカウンセラーという書籍は、数えるほどで、あったとしてもディレクターの視点で書かれているものがほとんどです。なぜならボランティアの学生が自分のスキルアップのためにお金と時間を使おうとは思わないからです。
キャンプディレクター必見:Joel Meier & Karla Henderson, Camp Counseling, Waveland PressInc.
一方、私の本棚には、アウトドアリーダーに関する書籍がずらりと並びます。もちろん私の指向性もあると思いますが、野外教育全般にレビューをしているので、現実の出版数と大きな偏りはないでしょう。
では、アウトドアリーダーとは、どのような概念なのでしょうか?
アウトドアリーダーの概念
NOLS、WEAの創設者としてお馴染みの、ポール・ぺッツォの定義が、今なお根強く残っています。彼は、以下の3つの重要な観点を提示しています(the New Wilderness Handbook, 1984)。
野外教育・レクリエーションにおける
1)安全の確保
2)環境の配慮
3)体験の質の保証
私が、野外救急(安全)とLNT(環境)を、野外教育の両輪と例えるのも、この定義に基づいています(ブログ:野外教育って何?)。
ただ、この定義だけだと、ボランティアリーダーもアウトドアリーダーに含まれますよね。
現実的な運用として、アメリカでOBやWEAのインストラクター経験のある、びわこ成蹊スポーツ大学の林綾子さんは、「OB、NOLS、WEAなどの、Wilderness Based Programの指導者のことを指すことが多い」と述べています。確かに、同感です。
一方、WEAの理事であるジェイ・ポストさんは、上述したポールの定義を引用しつつも、「この定義が曖昧なことが、そのアウトドアリーダーの専門性を妨げいる」と嘆いています。つまり、本当だったら専門性のある人もしくは役職のことなんでしょう。
そのものズバリ「Outdoor Leadership(Martin, Chashel, Wagstaff, and Breuning, 2006)」という野外指導者必見のテキストでは、アウトドアリーダーは、プロフェッショナル(専門職)であると述べています。この視点から見ると、やはりボランティアは除外されることになります。
ただ、プロ、プロといっても、日本ではプロの定義が曖昧ですので、プロとはいったいなんでしょうか?
プロフェッショナルとは
上述したWEA理事のジェイ・ポストさんが日本のWEAJで基調講演をしていただいたときに、アメリカのプロフェッショナルの定義として、以下の観点を上げました。
1)長年にわたり、産業として認められている。
2)職業となっている。
3)業界基準がある。
4)訓練・継続的な教育機関がある。
5)外部(政府・業界団体)による統制がある。
6)変化し続ける。
日本だと6)しか当てはまらないような……
同様に、上述した「Outdoor Leadership」では以下のプロフェッショナルに観点を挙げています。
1)科学的基盤、応用可能な技術などの知的体系がある。
2)専門的知識を学ぶ機関がある。例えば、大学、公認団体、専門機関など。
3)社会から職業として認められている。資格は社会的評価を高める。
4)特定の専門家集団から支持される倫理基準がある。例えば運行基準など。
5)業界の価値を維持するために、権利、責任、義務を担う専門機関に参加する。例えば、協会、学会など。
文言は違えど、言っていることはほぼ同じですね。日本では、一部は部分的に満たされていますが、全ての条件をクリアするとなると、日本にアウトドアリーダーという職業はないと言わざるを得ないですね。
WEAは、このような背景の中、アメリカの野外指導者業界の基準を満たすために、指導者養成カリキュラムと、資格・公認システムを発展し続けてきました。つまり、WEAとは、アメリカで現実的に機能するために、上記の基準を丸ごとパッケージしたものです。
科学的基盤のあるカリキュラムで、大学、民間機関に公認を与え、業界基準を満たした職業人を育成し、野外指導者のネットワークや、再教育の機会を提供しています。
ただ、アメリカだと、長い歴史の文脈の上で、これが機能しますが、WEAを日本に持ち込んだだけでは、専門の教育機関の問題や、産業となっているかという点で、WEAJの努力だけではどうにもならないこともあります。
つまり、アウトドアリーダーとは、野外教育・レクリエーションの分野の業界基準を満たし、専門家集団に属した専門職、もしくはそれを目指す候補生(専門学生)ということになります。
野外教育と野外レクリーション
WEAの創設者であるポール・ペッツォは、Wilderness Education(教育) Associationという名称を付けながら、アウトドアリーダーの範疇として、野外教育・レクリエーションと示しています。
教育とレクリエーション、確かに違うけれども、何がと言われると、いまいち説明できませんよね。
すみません、私は教育にしろ、レクリエーションにしろ、原理の専門家ではありませんので、文献に頼ることになりますが。
孫引きで申し訳ないのですが、「Outdoor Leadership」の中で、レクリエーションとは、レジャーの中の概念であると引用されています。そして、レジャーとは、「仕事」「学校」「家事」以外の、「余暇」、「自由時間」、もしくはそのときに自発的に行う活動のことです。つまり、野外レクリエーションは、余暇時間に自発的に行う野外活動です。
一方、教育とは、特定の場所で特定の科目を学習をするスクーリング(学校で学ぶこと)であり、それらの特定の能力の発達を目的とします。野外教育とは、上述した余暇とは逆の(広義の)学校で、教育的目的を持って行う野外活動です。
では、野外レクリエーションで学びはないかといったらそんなことはありません。野外教育のような体系だった学習効果の保証はないにしろ、野外教育と同じような様々な学びがあることは私たちは経験的に理解しています。
また、指導スキルはどうかというと、いずれの指導者もそう大きな違いはありません。私の野外研修(教育目的)では、山岳ガイド(レクリエーション派)と、キャンプ指導者(教育派)が一緒に講師をしてくれているのですが、いずれも高い成果を出してくれています。強いていうなら、ガイドの方は、山の経験が豊富、キャンプの方は、介入がうまいといったことぐらいでしょうか。
さらに、双方が活動を行う場所は全く同じです。ガイドが山より、キャンプは街よりと言えないことはありませんが、自然にボーダーラインはありませんので、同じ自然を共有しているわけです。そして自然の中で活動する以上、双方に共通する大前提が、安全と環境です。
アウトドアリーダーとは、アプローチがレクリエーションであれ、教育であれ、それに必要な安全管理と環境配慮のスキルを前提に、それぞれの参加者のニーズや目的を達成するための指導者のことです。
アメリカではほぼ全ての大学に、「キャンパスレクリエーション」という学生サービスがあって、その中で、必ずあるメニューの一つがアウトドアレクリエーションです。そして、このシステムが、野外専攻を修了した学生の重要なキャリアパスとなっており、アメリカの大学教育で野外専攻が成立する理由の一つでもあります。
私自身、自分は野外教育者であると認識しておりますし、そこにガイドとは違う専門性を持っているという自負はありますが、WEA自体は、野外教育に特化したことではないでの、もう少し広く野外レクリエーションのマーケットも視野に入れいる必要があるかもしれませんね。反省、反省。
アウトドアとウィルダネス
最後に、なかなかヘビーな問題ですが、アウトドアリーダーの、「アウトドア」とはなんなのかということです。
日本では野外教育の場としてのボーダーはほぼないとってもいいでしょう。都市の公園から、山岳まであらゆる自然環境で行われいます。でも本来、それが「Outdoor Education」で、お隣中国では「戸外教育」と翻訳されています。それを日本語に翻訳すると、「屋外教育」です。実際、Outdoor Educationの有名な定義を見る限り、この概念が妥当であり、何も大自然の中で行われることを前提としていません。
では、実際なぜ、Wilderness Based Programの野外指導者をアウトドアリーダーと称しているのでしょうか。一つは、アメリカの原生自然の保護の歴史があります。20世紀初頭、原生自然(ウィルダネス)を保護する理由として、動力を用いない野外運動(アウトドアパスーツ)を行うためのレクリエーション資源として保存することが叫ばれました(ブログ:原生自然とアメリカ人の精神)。これにより、アウトドリーダーは、「原生自然」において、「野外運動」を提供する指導者という概念が、アメリカには根強くあります。
「Outdoor Leadership」の中で、アウトドアリーダーの活動の場として、学校キャンプ、組織キャンプが示されていますが、いずれもアウトワードバウンドをモデルにしたり、冒険プログラム(Adventure Based Program)の指導者が例として上がっています。日本でもいくつかの組織キャンプで野外遠征を行っていたり、長野県の学校キャンプでは、北アルプスの登山を行っているところもありますよね。一方で、日本のアウトドアリーダー養成で行われているようなゲームのリーダーは挙がっていませんでした。
また、もう一つの例として、国立公園におけるレンジャーも例に上がっていました。彼らの任務は、日本のレンジャーのような環境管理だけではなく、野外教育・レクリエーションの提供者でもあります。私の経験から、現実的に彼らのプログラムの多くが、自然解説が中心であり、冒険活動はほんの一部ですが(無償のプログラムであることや、国立公園周辺の民間プロバイダーとの棲み分けも理由にあるかと)、実際に活動しているエリアは、国立公園なので原生自然の中です。
また、別の理由として、日本のレンジャーの方の多くが理学系の学部出身に対して、アメリカでは多くのレンジャーがレクリエーション学部(日本のスポーツ系学部)で教育を受けていることもあり、アメリカの野外では同業者という意識があります。
野外にボーダーを引くのはとても難しいことで、なんか仲間割れを起こしそうで嫌なのですが、現実的にアウトドアリーダーの「アウトドア」は、単に「屋外」とうことでなく「原生自然」であり、提供する活動は野外活動全般ではなく「アウトドアパスーツ」であると言えます。逆に、そこで専門的な冒険活動を提供し、安全を確保し、環境に配慮するスキルにこそに専門性が必要となり、業界として成立する所以でしょう。これが、リスクがほとんどなく、環境への配慮もさほど必要とせず、活動に特別なスキルがいらず、未経験の人でもすぐにできるような指導では、業界として成立しないでしょうね。
まとめ
アウトドアリーダーとは、安全管理と環境配慮を前提として、主に原生自然で行われる冒険活動を用いて、野外教育・レクリエーションを提供し、参加者の体験の質を保証するのことのできる職業人もしくはそれを目指す専門学生(候補生)のことです。そしてアウトドアリーダーシップとは、それを達成できる指導スキルのことです。
私は、ひとまず、アウトドアリーダーを、「野外指導者」と訳しました。野外レクリエーションの分野、例えば、ハイキング、パドリング、サイクリング、スノースポーツでは、各業界団体の体系化が進み、上述したアウトドアリーダーの定義はほぼ満たしていると考えます。彼らに原生自然の概念がなくとも、アウトドアパスーツの特性上、目的、技術に応じて原生自然に発展していくことが前提の技術体系となっています。一方、野外教育の分野では、野外の概念が曖昧なため、野外指導者という訳は、今日の野外教育の混沌の中で、玉虫色に捉えられてしまうかもしれません。またレクリエーションと教育の境界線が曖昧なため、「自分は教育者だからガイドとは違う」と自分に言い聞かせ、ガイドと同じ活動を経験値のみで提供している現状があります。
職業としない限り優秀な人材は入ってきませんし、優秀な人材がいないと職業になりません。
まさに、鶏と卵理論で、永遠の迷宮ですね。WEAはその迷宮から脱する解決策の一つですが、日本の現状を考えると、これだけで野外教育が産業になるとは思えませんし、WEAJだけでは力不足です。野外教育で食ってる方、自分だけ食っていければいいって問題ではありません。野外教育で食っていきたい方、こんな業界不安ですよね。一緒にみんなで本気で考え始めませんか?
より詳しく知りたい方は、WEAカリキュラムに基づき、アウトドリーダーのスキルをわかりやすくまとめた、アウトドアリーダー・デジタルハンドブックを参考にしてください。
本格的に野外指導を勉強し、指導者を目指したい方は、Wilderness Education Association Japanのサイトをご覧ください。
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