日本でもいよいよワクチン接種が本格化されましたね(日本の遅れを嘆いてもしょうがない)。本日(5月17日)から、首都圏、関西圏で大規模ワクチン接種センター(自衛隊管轄がいかにもユニーク)が開設されるなど、今後の加速に期待です。
医療従事者への接種も進み、あやさま(備考:私の奥様、飼い主、看護師)も、2回接種を終え、家庭内感染の経路が絶たれ、私のリスクもさらに低減したことになります(さすがに家庭内で隔離していなかったので。立場は常に隔離)。
先日、私がWMTCプロバイダーとして参画する、ウィルダネスリスクマネジメントジャパン(WRMJ/ワーム)で、12月に行われるカンファレンスの会議で面白い議論がありました。それは、ワクチン非接種者の取り扱いです。確かに12月ごろは一般成人で接種者と非接種者が混在するタイミングかもしれませんし、国民が100%ワクチンを打つとも限りませ。
これまではみんな非接種だったので、「人類平等、みんな敵」だったのでですが、今まで通り感染やワクチンに関する理解が乏しいと「接種者は仲間、非接種は敵」の時が訪れかもしれません。そんな全国民同時にワクチンを打てるわけではないのですが、マスクポリス、医療従事者に対する差別の実態を見る限り、日本国民の倫理観はすぐには変わらないでしょう。
そこで、今回は、少々チャレンジグながら、我が同朋と信じる野外事業者が、これから半年間訪れるワクチン接種者と、非接種者の混在した世界の心構えについて考えたいと思います。医療従事者の方、倫理学者の方のご意見も聞きたいところです。
目次
・フルワクチンの世界とは
・ワクチンパスポートの倫理学
・withワクチンのアウトドア
フルワクチンの世界とは
毎年季節性インフルエンザの感染者数は、1,000万人(10人に1人)、重症化2万人(0.002%)、死者1-3千人(0.0002%)で、ワクチンの摂取率は成人で25%、高齢者50%と言われています。
一方、新型コロナは5/17現在、68.5万人、重症化7万人(0.1%)、死者1万人(0.015%)です。感染者数が少ないのはこの一年感染対策をした結果で、それに対してやはり、重症化率、死亡率がめちゃくちゃ高いのがわかります。
感染力は、これまでと、この1年では比較ができないので、素人に疫学的データのみから評価はできませんが、感染力が高いと言われていることを信じるのであれば、これまで通りのワクチン接種に対する意識で、日常の生活に戻ったら、大変なことになることが容易に想像がつきます。
そこで、ゲームチェンジャーとなるがワクチン接種です。これからの1年は、単に感染対策だけではなく、ワクチン接種者の混在した、withワクチン時代のアウトドアが求められるでしょう。
全米疾病管理予防センターは、5/13に、ワクチンによる免疫獲得後のガイドラインを発表しました。
引用:Centers for Disease Control and Prevention(2021)https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/fully-vaccinated-guidance.html?fbclid=IwAR3PDUsspjTyFa2F25Bwvv9iiqkFwTtfEroNAZ_ZdUDcFmIkthweKVQHaoo
このガイドラインによると、フルワクチン(接種2回後免疫獲得までの1-2週間経過)の人は、野外活動だけではなく、非接種者と3密となることも問題ないし、非接種者に移すリスクもほとんどないということです。
つまり「接触者は仲間、非接触者も仲間」ということです。待ちに待っていた夢のような世界ですね。
そこで、残るリスクが非接触者間の感染リスクとなります。
ワクチンパスポートの倫理学
ワクチン接種が進む中で、その接種を証明するワクチンパスポートの是非が、世界各国で議論されています。
国民の50%以上がフルワクチンという、ワクチン先進国のイスラエルでは、その高い接種率の要因として、その証明書である「グルリーンパス」の導入が挙げられています。
このグリーンパスがあれば、レストランやイベントにも参加でき(逆になければ入店できない、参加できない)、国民のワクチン接種のモチベーションにつながったと言われいます。
これは、これまでかなり厳しく行動規制を行なっていたから、規制緩和のモチベーションになったわけで、非接種でもゆるゆるだった日本で、今まで大丈夫だった人たちを排除すれば、大騒動になるでしょうね。
一方、アメリカでは、個人のプライバシーや人権を守るために、連邦レベルとしては導入しないことを発表しました。
さらに、テキサス州やフロリダ州では、これらの証明書を発行することを禁じるとともに、提示を求めることも禁止しているそうです。
国によっても考え方は様々ですね。日本は相変わらず様子見ですね。
ワクチンパスポートに関する議論の参考に、PCR検査などの抗原検査結果や、COVID-19からの回復により自然免疫を示す「免疫パスポート」の問題点について、医学倫理的には以下のように議論されています。
まずは反対派の意見。
1.実用的問題:抗原検査の精度の限界、偽陰性のリスク
2.不公平性:検査の機会、活動の制限、職種による感染リスクの違い
3.無責任:過信によるリスクの増大、免疫獲得者からの感染が不明
4.非協力:獲得免疫を得るための感染リスクの高い行動をとる
5.自由侵害:職場での検査の圧力、プライバシーの侵害
R. Brown et la.(2020)Passport to freedom? Immunity passports for COVID-19, Journal of Medical Ethics. 46(10): 652–659.
1. COVID-19の免疫特性がよく分かっていない
2. 抗体検査は当てにならない
3. 必要とされる検査件数は実現不可能な数字である
4. 経済を後押しするには回復者の割合が少なすぎる
5. 監視はプライバシーを侵害する
6. 社会的に疎外されている集団はさらに厳しく監視される
7. 検査への不公平なアクセス
8. 社会の階層化
9. 新しい形の差別
10.公衆衛生に対する脅威
N. Kofler & F. Baylis(2020) Ten reasons why immunity passports are a bad idea-Restricting movement on the basis of biology threatens freedom, fairness and public health-. Nature, 21 MAY 2020.
一方で、以下のような賛成意見もあります。
1.非接種者の権利を主張する一方で、接種者の権利が論じらていない。
2.感染リスクのある人を特定することは公衆衛生上避けられない。
3.感染リスクのない人の権利は守られなければならない。
I. M. Beriain & J. Rueda(2020) Immunity passports, fundamental rights and public health hazards: a reply to Brown et al, Journal of Medical Ethics. 46(10): 660–661.
1.他人に危害を加えることのない接種者の感染対策緩和の権利
2.接種者と非接種者を分けることによる感染拡大の防止
3.人は不公平な法律には従わない
J. Savulescu.(2020)Are immunity passports a human rights Issue? Journal of Medical Ethics Blog, January 23, 2021
当たり前のことですが、接種者に不利益を与えない、感染予防しつつ非接種者の権利を保護するためのシステムづくりが必要そうです。
withワクチンのアウトドア
野外活動は、集団生活を特性とし、教育効果とPPEによる感染対策はトレードオフとなりますので、感染対策を強化すれば教育効果に限界があり、教育効果を上げるためには感染対策を緩和する必要があります。このバランスを誤ると、期待されたベネフィットを提供できないばかりか、集団クラスターの温床となります。
この1年BCでは、コース前1週間の徹底した自己隔離と健康状態のモニタリング、及びコース中の集団隔離により、感染リスクを限りなく少なくした状態でコースを提供してきました。これらのハイレベルな感染対策を受け入れてもらえるのも、コースのベネフィットとのトレードオフを受け入れて下さったおかげと心から感謝しております。おかげさまで、今のところ感染者を出すことなくここまできました。
さらに、2021年に入り、安価な簡易抗原検査の流通がはじまり、上記のプロトコルに加え、コース直前の私費での抗原検査を義務付けました。これによりコース1週間以上前に感染し、無症状者の人を、ある程度ふるいにかけることができるようになりました。
今後、ワクチン接種が進み、副反応等のリスクテイクした人にとって、これまで同様の1週間の自己隔離や、直前の抗原検査を課すことは、フェアと思ってもらえない、つまり、受け入れてもらえない時代が間も無く来るでしょう。
接種者は、コース参加のために、フルワクチンであることを主張するようになり、プロバイダーもその根拠資料が必要となります。よって、野外事業としてはワクチンパスポートはやってもらわないと、本人の申告に頼るしかない逆に危険な状態となります(非接種者が接種者のように感染対策なしで活動するリスクを否定できません)。
次に、非接種者を受け入れるかどうかですが、CDCのデータからは、接種者にとって、非接種は全く問題ないということです。この情報を接種者に正しく理解してもらわないと、非接種者を受け入れているコースに参加したくないという誤解を生むことになるので、今後プロバイダーは、ワクチンに関する理解と情報発信は、募集段階で必須となるでしょう。
では、非接種者同士の感染ですが、これは引き続き、活動内容や環境に応じたプロトコルを続けるべきです。BCではコース中に感染対策の緩和をできる限りしたいので、引き続きコース前1週間の自己隔離とコース直前の抗原検査を義務付ける予定です。
では、これをいつまで続けるのかということですが、日本が集団免疫を獲得するまでということになると思います。集団免疫とは、特定の集団で、一定の割合の人が免疫を持つことによって、感染の連鎖を断ち切り、非免疫の人を保護できる状態のことです。
その「一定の割合」は、過去の疫学的統計から6割といったデータもありますが、ウィルスによっても違いますので、素直に政府の宣言を待とうと思います。そして、その時がwithワクチン時代のアウトドアの終焉とアフターコロナの始まりでしょう。
早速この夏から、接種、非接種のハイブリッドコースが始まるかもしれません。そのための各団体のガイドライン作りはまさに今です。野外業界が、感染防止に引き続き貢献し、1日も早い集団免疫の獲得を達成するために、BCは以下の方針でwithワクチン時代にチャレンジしたいと思います。