東北の沢をバックカントリークラスルームにする12のスキル

登山は野外研修や野外指導者養成のツールとして最も活用されるアクティビティです。ところが一口に登山といっても、難易度、身体的負荷、距離などで、なんでもかんでも教育のツールとして使えるわけではありません。

例えば、難易度をあげれば、参加者の技術をあげないと、自立した登山ができず、結局は指導者の確保、判断のもと山行せざるを得ません。

また、身体的負荷を上げたからといって、参加者の体力差に大きく依存するグループダイナミクスになってしまいますし、目標達成の可能性を下げることとなります。

そこで、ほどほど難易度があり、ほどほど身体的負荷もあり、参加者が自立して山行を行い、かつ歩いていて楽しい、気持ちいい、美しいルートとしてオススメなのが沢歩きです。

BCの主催するコース、特に夏季のコースでは、特に沢を多用します。今回は、今年の夏の花山キャンプで中学生たちと、すごい沢の旅を終えたばかりですので、実際に全て使った12のテクニックを紹介します。

1.ルート開拓

登山道では、正直いったことのないルートに人を連れていって、不安を感じることはありませんが、沢に関しては1000%ありません。それだけ、沢は地図からは読み取れない地形があり、ある程の技術と装備がなければ通過できないということすらあります。

沢のルート開拓で最大のポイントとなるが、沢から尾根(登山道)、尾根(登山道)から沢へのアプローチです。沢の下見では、ある程度「あたり」をつけて、いくつかのルートを確認し、一番良いものをルートとします。

では、どうやって「あたり」をつけるのか?一つは標高差が最もないところ選びます。その点からも「ピーク」ではなく「コル」からのアプローチが一般的です。可能性のあるエリアにいくつもコルがある場合、その中でも最も低いコルを選びます。

尾根のルートは植生によっては壮絶な藪漕ぎを強いられることがありますし、標高差のあるコルだと、その分沢までに通過困難な小滝が現れる可能性があります。

ただし、コルを降っていくと、谷地形となり、ロープが必要となることもあるので、確保の技術も同時に必須となります。

2.ナビゲーション

沢にもちろん道案内はありません。そのため、自立したナビゲーションが必須となります。登山道のようにひたすら歩けばいつかつくという感覚は全く通用しません。さらに沢登りではいくつもの又があり、一歩間違えばとんでもないところに登っていってしまいます。

沢のナビゲーションの難しいところは、コンパス123はほぼ通用しません。沢は地図上にないような蛇行をしており、正確に方角を同定するのは極めて困難です。あえてやるとすると、沢の流れではなく、全体的な谷の地形を見てやるくらいです。

そこで、沢の中で重要な目安となるのが支流との合流です。トリッププランで、「あとどのくらい歩いたら〇〇沢の合流だ」ということを常に頭に置いて遡行します。

三俣、十字峡などの特徴的で稀な地形は確実なランドマークとなりますので、確実に押さえておきたいですね。

2.テラインビレー

「テライン」とは、「地形」のことで、ビレーディバイスなどを使わず、岩、木などで摩擦抵抗を作り行うビレーの方法です。

アンカーを構築しても、結局自然物にアンカーを構築するので、ディバイスを破損するリスク、ロープワークを誤るリスク、環を閉め忘れるリスクを考えると、むしろローリスクと言えます。さらに、いちいちスリングを出す必要がない。

ただし、自然物の強度、ロープの力学的な力の方向などを確実にマネジメントしないと、大きな事故になる方法でもあります。

テラインビレーをうまく使えるようになると、危険箇所通過のスピードも上がり、全体としてスピード感のある遡行になります。

3.高巻き

登るのが難しい滝や、ショートロープでは距離の足りない滝の下りでは、直接沢を登ったり、降ったりせずに、沢の脇のブッシュの中を通過する高巻きという方法があります。

ただ、滝のすご横は、滝ができるぐらいなので急斜面で、ブッシュがあったとしても、根付きが弱く、崩落する可能性もあります。

そんな時はちょっと一歩下がって全体を俯瞰し、滝の手前の小尾根などを登るようにしましょう。

また、高巻きは事故のリスクは低いものの、相当な時間を要する時があるので、ビレーでいくか、高巻きにするかは、ジャッジメントのとても良いティーチャブルモーメントとなります。

4.ザックスイミング

BCの淵(ゴルジェ)の通過は、迷わずスイミングです。これがめちゃくちゃ気持ちいい。子どもたちも大好きな沢の通過ポイントです。

一般的には、ビレーをしてゴルジェの壁をへつるような超え方もありますが、子どもにそのようなクライミング技術を求めても無理があります。

そんな時、ザックを浮がわりに、ゴルジェを通過します。一番セーフティーな方法が、完全にザックをおろして、ビート板のように使うやり方です。

慣れたキャンパーは、ウエストべルトを外し、背負ったまま、後ろ向きに泳ぐ子もいます。

バックルを外さずに前向きで泳ごうとすると、ザックの浮力で頭が水中にしずみパニックになるでお気をつけください。

5.流れ

沢は地形や流れによって様々な複雑な流れが生まれます。もちろん、指導者として全ての危険な流れを理解する必要がありますが、沢歩きをするために参加者に教える流れが、バックウォッシュとエディです。

バックウォッシュは、循環流といい、滝壺にできる縦回転の渦です。これにハマると、水面に浮いたと思ったらまた滝で川底に押し戻される、めちゃくちゃ危険な状態です。

脱出するためには、川底で上流側の岩などをけって下流側に水中を抜け出すのですが、パニックなった人にそんな余裕はありません。

滝に飛び込む時には、白波の立っている向こう側に飛び込むように指示します。

もう一つがエディで、反転流と言います。強い流れの両脇に発生しやすく、上流へと押し戻される流れです。水面は比較的落ち着いているのですが、下流に泳いでも泳いでも進まないし、下手したら本流の脇をぐるぐる回ってしまうこともあります。

これに捕まらないためには、本流のバックウォッシュの向こう側に飛び込むと、スーッと滝壺を通過できます。

6.防水

沢歩きでザックの中の防水は必須です。最近では、質の良いウェータープルーフバックも市販されています。ただ、大体大きくても30リットル程度で、濡らしたくない、シュラフや衣類を全て入れることはむずかしかもしれません(お金がある人は、それぞれ別のウェータープルーフバックに入れてください)。

BCでは、70-90リットルのゴミ袋を使ってザックの中の防水をします。中に入れるもの自体が40リットル程度でも、ザックの口まである大きさがオススメです。また、ゴミ袋は、強度の強いものにこしたことはありません。

まずザックの中に、ビニール袋を入れます。その中に濡らしたくないものを入れます。間違っても水筒など入れないように。次にビニールの口の中央を持ってできる限り細く巻いていきます。ある程度巻いたら、ビニールの中の空気を、口の両脇からできる限り抜きます。その後、口の端を指を使ってできる限り細く巻きます。片方ずつ丁寧にやると良いでしょう。ビニールの口をできる限り細く巻いたら、両端を本結びでしばります。

ビニール袋は一枚せいぜい数十円なので、もし高価なウェータープルーフバックが10年間ぐらい保つのであれば、とんとんになるぐらいですかね。また、参加者全員分市販のものを準備するのはちょっと現実的ではありません。もちろんゴミ削減の観点では、リユーザブルをお勧めしますが。

7.水抜き

水抜きと聞いてもピンとこない人もいるかもしれませんが、ザックに入った水を抜くドレインのことです。実はこれ結構重要です。

ボトムコンパートメントのあるザックだと問題ないのですが、それがないザックだとまさに水を数十リットル担いでいるようなもの。

そんなザックは、事前にザックのボトムにドレイン用の穴を空ける必要があります。ナイフでカットしても良いのですが、そこから生地がほつれてしまうので、事前に鳩目で止めておくと、そこからの痛みを防ぐことができます。

ザックのボトムに鳩目をつけている人を見かけると、「知っているねー」って感じです。

8.ムンタヒッチ

テラインビレーの利点を説明しましたが、やっぱりショートローピングのビレーの王道ムンタヒッチはものにしておきたいです。

これをするためには、アンカーを構築しないといけませんが、危険箇所及び自然物のリスクに応じて、スリング一本の時もありますし、流動分散、時にはトリプルの流動分散をすることもあります。

参加者はムンタでロアーダウンし、自分は自然物にロープをかけて、時には残置スリングで、ロープを2重にしてムンタで下ります。

自然物を使う時は、やはりロープの力学的な力のかかる方法を理解して行わないと、ロープが自然物に食い込み、ロープダウンできない、悲惨な状況になるので(せっかく降りた危険化箇所をまた登り直すということです)、慎重なセットが必要です。

9.焚き火

沢歩きは当然濡れますし、時として長時間に及びますので、夏といえども、低体温の処置や、服を乾かすのために、焚き火を起こす技術は持っておきたいです。

沢での焚き火は、鉄砲水になるとキレイさっぱりなくなるから、直火でやっても良いという人もいますし、釣り師の文化みたいになっていますが、次の鉄砲水まで誰が来るかわかりませんし、野外指導者としては、やはりマウンドファイヤーを選択したいことです。

また、本当に深い沢では、釣りの道具がなくとも、流れの落ち込みの中に手を突っ込めば余裕でイワナがとれます。せっかくとったイワナは、コッフェルじゃなくてやっぱり焚き火で塩焼きにしたいですよね。

沢筋はマウンドを作りやすく、薪も豊富で、LNTの焚き火のテクニックでゼロ・インパクトです。

10.スクラム渡渉

川底は複雑な地形をしていたり、急に深くなるので、流れが膝を超えたら、または濁って川底が見えない場合は膝下でも、バディーと支え合いながら渡渉するスクラム渡渉をおすすめします。

まず流された時に離脱しやすいように、ザックのウエストベルトとチェストベルトのバックルを外します。二人組の時は、お互いのショルダーベルトの肩のあたりを持ち、体力がある人が上流側、ない人が下流側で、横歩きして渡ります。

三人組の時は、同じように隣の人のショルダーベルトを保持して、体力のある人が上流側で三角形を作り渡ります。

大人数が腕を組み横一列になって行うライン渡渉というのもあるのですが、全滅した時にレスキューが大変なことになるので、リスクは分散した方が賢明かと思います。

11.レスキュー

泳ぎに自信がある人でも、衣類を着ていて思うように動けなかったり、予想外の流れに捕まってどんなに泳いでも思った方向にいけないと、パニックになることがあります。そのため、レスキュー技術も、沢を思い切り楽しむためには、欠くことのできない技術でしょう。

リバーレスキューでは、スローロープなどの訓練をしますが、滝壺の複雑の流れの中で、パニクっている人にはあまり現実的ではありません。

これは救助者の泳力が大きく影響することになりますが、コンタクトレスキュー(溺れた人を泳いで助ける)が素早くて、確実で、現実的です。様々なテキストには、二重事故につながる危険なレスキュー方法とありますが、日頃トレーニングを積んでいればこのリスクは限りなく少なくできます。

溺れている人に泳いで近づくと、正面から抱きついてきますので、こちらも泳げなくなってしまいます。溺れている人の体をくるっと反転させて、下顎をもち、自分の浮力で、溺れている人を持ち上げてあげ、背浮きの状態にします。「大丈夫、大丈夫」と声をかえ、安心させてあげ、そのまま、古式泳法の要領で引っ張っていきます。

私は、毎年夏の子どもキャンプで、泳げないけど飛び込みたいという子どもに対応しているので、かなり慣れていると言えます。皆さんもこの判断をする前には、しっかりシミュレーションして、自分の限界を理解しておきましょう。日々の研鑽と過信をしないことが重要です。

12.カロリー

最後は、なんといってもエネルギーです。沢の中の移動は、尾根歩きのアップダウンのようなあからさまなしんどさはありません。むしろ、滝に飛び込んだり、崖を降ったりと、好きな人に楽しくてしょうがないかもしれません。ただ、ずっと水の中を歩いていることと、冷えもあり、相当なエネルギーを消費します。

山行中に入渓する前日の夕食はいつもよりも多めの炭水化物をとり、沢の中では、休憩ごとにトレイルフードを多めにとるなど、積極的なエネルギー補給が必要です。

一度寒さ反応なの症状がでると、うまく沢の中を歩けず転倒が増え、淵を上手く抜けられず長時間水に浸かるなど、低温状況を悪化させる負のスパイラルに陥ります。

楽しい沢歩きは、健康的な体からですね。