LNTがキャンプ場ビジネスを変える-四徳温泉キャンプ場と歩んだ2年間-

このブログの読者の方がにLNTってなんだ?っていう人はそろそろ少なくなってきたのではないでしょうか?LNTを理解した方であれば、それに対して「否」を唱える人はなかなかいないと思います。それでも、有料のパートナーとして、LNTを実践したり、指導したりすることに、目に見えるメリットを感じられない方も多いのではないでしょうか?

四徳温泉キャンプ場は、オーナーである久保田雄大さんが、2019年2月にLNTトレーナーを取得し、その後LNTとパートナーシップを組み、LNTをキャンプ場経営に導入したことにより、ノーマルシーズンの2019年と、コロナ渦における2020年シーズンを通じて、劇的に進化したキャンプ場です。

今回は、四徳温泉キャンプ場がLNTと歩んだサクセスストーリーを紹介することで、今後パートナーを検討されている方の参考になればと思います。


目次

・キャンプ場のコンセプトの明確化
・利用者の環境モラルの向上と環境スキルの獲得
・コロナ渦でも感染予防をしながら集客率維持
・メディアの露出によるさらなる認知度拡大
・コロナ対策モデル観光事業の助成金を採択
・地域のキャンプ場とともに南信州キャンプセッションを設立


キャンプ場のコンセプトの明確化

キャンプ場を運営する会社で、環境への配慮が無かったり、キャンプ場のコンセプトとして、自然へのダメージを無視するところはないのではないでしょうか?ところが現実は、アウトドア産業の活況により、周囲の環境や社会に深刻なダメージを残したり、その尻拭いをするためにスタッフが疲弊するキャンプ場も少なくないはずです。

四徳温泉キャンプ場でも、LNTを導入する前は、漠然と、環境にやさしくというコンセプトはありましたが、どのようなルールや方法が正しいのか、明確な基準がありませんでした。

「夜は静かにしましょう」など、いくつかありきたりのルールを設けるものの、アウトドア活動全般をカバーするためには、一体いくつルールを作れば良いのかわからないし、「焚き火」はして良いの?悪いの?など何が正しいのか混沌としていました。

その時、LNT7原則と、それに基づくフロントカントリーでのテクニックを導入することで、頭を悩ませていたキャンプ場のガイドラインづくりの苦労が一瞬で解決しました。また、何よりも、価値観や経験値の違う全てのスタッフが、不要な意見の食い違いやすり合わせをすることなく、全員が同じ基準で、環境にやさしいキャンプ場を作りたいというゴールに向えるようになりました。


利用者の環境モラルの向上と環境スキルの獲得

四徳温泉キャンプ場では、2015年の運営開始より、「ゴミは全ての持ち帰る」など、環境に配慮したキャンプ場を目指してきました。ところが、LNTを導入する前は、予約時のメールでの説明や、受付時の15分にも及ぶガイダンスなど、環境に配慮しようと思うほど、スタッフや利用者にとっても負担の大きなものとなってしまいました。

とこが、LNTの導入がこれを一変しました。LNTなシンプルな原則を説明するだけで利用者も簡単に環境に配慮した使い方を理解できるようになりました。LNTが発信する情報や動画を活用することで、必要以上のガイダンスがなくとも、利用者が主体的にキャンプ場やその他の利用者に配慮した行動を取るようになりました。

また、キャンプ場の開設以来、繁忙期には、すぐに流し場の配管が詰まってしまうので問題がありました。その都度、スタッフが配管を掃除するなど、スタッフにとって重労働の一つでした。

そこで、LNT原則3のゴミの適切な処理のテクニックをとりいれ、「スクレーパーで食べカスを落とす」→「新聞で油を拭き取る」→「たわしで洗う」といった3つのゾーンに分けることによって、配管のつまりが全くなくなりました。さらに、利用者が自主的に流し場をきれいにしてくれるようになり、スタッフの負担も一気に少なくなりました。

LNTを理解した利用者が使えば使うほど、施設はどんどんきれいになり、環境へのインパクトも少なくなりました。それがまた四徳温泉キャンプ場のブランディングにも役立ち、今では素晴らしいサイクルが生まれています。


コロナ渦でも感染予防をしながら集客率維持

2020年、アウトドア業界は大変なシーズンを迎えました。コロナによる活動の自粛や移動の制限です。南信州の山奥にある四徳温泉キャンプ場は、利用者の感染予防はもちろんですが、高齢者がほとんどで、医療機関が乏しく、感染に対するガードの弱い過疎の村に、感染を持ち込むことは絶対避けなければならない課題でした。

そこで、LNTの7原則に立ち返り、感染予防対策ができないか、当時出来立てホヤホヤのLNT Japanと協働して、各種アウトドドア団体に先駆けて、ガイドラインを作成しました。

LNT自体、環境、社会へのインパクトを最小限にすることが目的ですので、ウィルスという環境インパクトや、他者への感染という社会的インパクトを考える上でも、親和性が高く、とてもすっきりしたキャンプ場における感染予防ガイドラインを作成し、全国のキャンプ場に先駆けていち早くリリースすることができました。

利用者は、この動画をキャンプ場のホームページで事前に理解しているので、キャンプ受付時の説明は最小限ですみますし、何よりもLNTを理解している利用者なので、主体的に感染予防の正しい判断をすることができました。

この結果、2020年は、感染に関する問題を起こすことなく、例年並みに集客し、無事にコロナ渦の経済危機を乗り切ることができました。

LNTJでも、アメリカのLNTの感染予防ガイドラインを翻訳して公表しているので参考にしてください。


メディアの露出によるさらなる認知度拡大

この先駆的な取り組みは、2020年5月の緊急事態宣言の解除で、感染予防ガイドラインづくりで戦々恐々としていたアウトドア業界の目にもいち早く止まりました。四徳温泉キャンプ場は、全国の中でも、優れた感染予防対策をとっているキャンプ場としてメディアへの露出が高まり、とうとうNHKの「ウワサの保護者会」という番組でその特集が組まれるに至りました。

テレビ放映された段階では、すでに夏の予約がかなり埋まっていたことや、もともと最小限の利用者しか受け入れいないことから、大幅な増収につながったわけではありませんが、長野県の観光行政や、周辺のキャンプ場の中でも一目置かれる存在へとなりました。


コロナ対策観光事業の助成金を採択

長野県にとって、アウトドア観光は、県の重要な産業基盤です。そのため、感染対策も県を上げての必須課題となります。長野県観光機構では、県内で観光業に携わる団体に対して、ニューノーマルを見据えた地域の取り組みに対して支援を行う観光振興地域協働事業を開始しました。

四徳温泉キャンプ場では、これまでのLNTの実践の積み上げや、コロナ渦における素早いアクションのおかげで、この長野県の動きに素早く対応することができました。その結果、感染予防のガイドラインの作成、動画作成、キャンプ場の感染予防対策の拡充、ワーケーションなどの新たな市場開拓を行うことができました。


地域のキャンプ場とともに南信州キャンプセッションを設立

そして、この一連の流れの集大成として、南信州の8つのキャンプ場が集まり、LNTを共通コンセプトとした南信州キャンプセッションが2020年7月に立ち上がりました。

このセッションは、LNTをベースとして、「新たなキャンプカルチャーの創造」、「キャンプ場のクオリティの向上」、「キャンパー目線のエリアづくり」を南信州から発信していきます。

2020年10月19-21日(10月14日締切)には、同ネットワーク主催で、LNTトレーナーコースが四徳温泉キャンプ場で開催されます。ありがたいことに講師としてお招きいただいているので、南信州のキャンプ場のオーナー、スタッフの方々とお会いできるのを今からワクワクしています。

このコースはオープンコースですので、関係者以外の方も参加できます。LNTを学べるだけではなく、この熱いムーブメントを巻き起こした南信州のキャンプ場のオーナーの方々とネットワークができるのも、このコースならでは魅力ですね。

LNTトレーナー四徳温泉コース専用ページへはこちら


まとめ

最初の話に戻りますが、持続可能性は今日のアウトドア産業で外すことのできないコンセプトです。一方で、キャンプ場のオーナーの経験値や価値観によって、その基準は必ずしも一貫していません。それは、時には利用者にとって、あちらのキャンプ場ではやってもいいのに、こちらのキャンプ場ではダメなのといった、誤った評価を生むことにもなります。

LNTは、全ての環境、全ての対象、全ての活動に対して汎用性のある、野外環境倫理です。南信州のキャンプ場に行けば、どこに行っても同じ考え方で、同じテクニックが活用でき、利用者の環境意識の向上や環境スキルの習熟が期待できます。

これは南信州だけではなく、長野県下全て、いや全国、いやいや全世界で通用する原理です。どこに行っても自分が身につけた倫理観やテクニックが通用する。これこそが、人々を本当の意味でのアウトドアに誘い、グッドキャンパーを育て、ユーザー主導で持続可能なアウトドア産業が実現する方策ではないでしょうか。


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