アメリカの野外を学べる大学の現状

これまで日本の野外は、戦前、戦後からほとんどがアメリカの野外の情報を基に発展してきました。初期の青少年教育団体の設立をはじめ、1970年代に筑波大学の飯田が持ち帰った冒険教育、環境教育。そして1989年のOBJや、1900年代の各種パッケージドプログラムなど。2000年代に入り、民間団体のユニークな活動が活発化したものの、その基盤となるノウハウの多くは元をたどれば、アメリカの野外です。

BCでも、アメリカの情報を基にさまざまなアクションを展開していますし、アメリカの大学は野外の指導のレベルが違うよと言ってきましたが、自分が見てきたものは、一部のトップ中のトップだけかも知れませんし、全体として本当にどれほど浸透しているのか、完全に理解していたわけではありません。

そこで、2022年2月にコロナ後初となるWEAカンファレンスに参加し、それとたまたま共同開催されていたCoalition for Education of the Outdoor:CEOとう学会で、全米の野外専攻のある大学のサーベイがあり、とても参考になったので共有します。


方法

そもそも方法論からして、まずは日本では再現不可能なものでした。アメリカの大学検索システムであるIntegrated Postsecondary Education Data System(IPEDS)を基にしていますが、日本のあらゆる大学検索サイトを調べても、今回の調査で用いられたようなキーワードで、検索に引っかかるものはありませんでした。それだけアメリカの大学では「野外」が学問として認知されているということですし、高校生が進学、就職の選択しとしているということです。

このデータベースに対して、以下の基準で母集団を設定しました。
1)アメリカ50州とコロンビア特別区(ワシントンDC)を含む。アメリカの海外領土は含まない
2)公立(州立大学など)、私立非営利(ハーバード、スタンフォードなど)を含む。営利は含まない。
3)学士を提供している。
4)はじめて学士を取ろうとする学生を対象としている。社会人を対象とした再教育プログラムは含まない。
5)対面授業である。オンライン、遠隔授業を含まない。

以上の基準から、1482学科が検索対象となり、これらに対して以下のキーワードで検索をかけました。

adventure、challenge、expedition、experiential、outdoor、wilderness


結果

1482のうち、128(8.6%)が、野外のプログラムを提供していました。そのうち、58が主専攻(野外〇〇学士という学位資格が取れる)で、残りの70は、野外の主専攻はなく、関連分野(例えば、パーク&レクリエーションなど)で野外プログラムを提供していました。所感ですが、かつてのアメリカの大学で野外を学ぶといえばむしろパーク&レクリエーション学部(アメリカではhealth, Physical Education & RecreationでHPER(ハイパー)と言い、日本の体育学部がこれにあたります)だったのですが、近年では、上記のキーワード名を冠した専攻があるということですね。

58の主専攻の名称に含まれている用語は、45outdoor、16adventure、22education、21recreation、19leadership、10managementでした。leadershipは、メタスキルとしてのリーダーシップではなく、〇〇指導の意味です(野外指導、遠征指導など)。adventure(冒険)という言葉が専攻名に入っているあたりがアメリカらしいですね。日本の大学だと、野外はスポーツマネジメントに含まれることが多いですかね?ここに軸足を置いてしまうとどうしても指導法やテクニカルスキルより管理重視の教育体系になってしまいます。

野外専攻がある大学のタイプは公立大学が82(14.5%)、私立非営利が46(5.1%)でした。日本では、国立大学で野外の専攻なんてちょっと考えらないですよね。かつてあった信州大学の教育学部野外教育専攻はこれにあたりますね。北海道教育大学は、スポーツ文化専攻の中のアウトドアライフコースなので、上記のその他の70に中にカウントされます。

大学院を併設している大学が120(9.6%)と、学士のみの8(3.7%)に比べ圧倒的に多い結果でした。ここからも野外指導が、教養教育ではなく、専門教育と認識されていることが理解できますね。日本だと、学部時代は指導教員のゼミで野外を学んでも大学院に行くと、保健体育の教科教育や、コーチング専攻なので、野外とは関係のない授業の単位を取らないといけないのが現状です。ちなみに私が2000から2005年度まで勤務していた、奈良教育大学では、2003年の大学院改組で、教育実践専修?の中に「環境・野外教育系」を立ち上げ、日本ではじめてoutdoor educationを冠し、環境教育、野外教育を総合的に学べる大学院のコースを作りましたっけ。

野外専攻のある地域として、ダントツに頻度が高いのが、ロッキー山岳地区(CO, ID, MT, UT, WY)で、18/46で39.1%でした。確かに2月のWEA_COEクリニックにも、コロラドの大学から何人か参加していましたっけ。日本でいえば、長野、北海道あたりでしょうか。次いで頻度が高いのが西海岸(AK, CA, HI, NV, OR, WA)で、20/139(14.4%)であり、ほぼ同じ大学数のニューイングランド(CT, ME, MA, NH, RI, VT)12/126(9.5%)の1.5倍でした。一方、最も大学数が多いのが南東部(AL, AR, FL, GA, KY, LA, MA, NC, SC, TN, VA, WV)で、39/390で10.0%でした。それぞれの地区の大学数が違うので、なんとも比較しにくのですが、やはりロッキーエリアの割合が高いですね。また、大学の数としては、現在のWEAの本部があり、2月にWEAカンファレンスが行われた南東部がダントツ多いのですね。確かにアパラチアン山脈があり、野外のプログラムはやりやすかもです。カンファレンスに200名ぐらいの参加者が復活したのもこのためかな?


考察

今回に日本にも参考になるデータのみを紹介しましたが、総括すると、そもそも野外指導が、大学の専攻として存在しており、進学、就職の選択しとなっている時点で、根本的な違いがありました。さらに、日本でいう国公立大学にも野外専攻があり、全米各地区に広がっていることからも、地元の大学で、比較的に安い授業料で野外の勉強ができることがわかります。また野外専攻を持つ大学のほとんどが大学院も持っており、ここからも野外指導が専門職教育であることが理解されます。

この大学教育がベースとなり、開発されたのが、WEAの教育体系ですので、日本の大学に導入できるはずがないと考える人もいるかもしれませんが、野外指導者のほとんどが、日本もこうなったらいいのになあと思っているはずです。WEAは、カリキュラムを導入し、発展手順に沿うだけで、最終的にはアメリカと同じゴールを目指すことができます。優れた指導者が、優れたプログラムを社会に提供することとにより、野外教育の価値が認められ、業界として確立すると考えます。この循環が、いつかは野外指導を目指す高校生が現れ、大学に専攻の必要性が認められ、その教員を育成する博士課程が充実してくるのでしょう。まずは大学教育の進化が、明日の野外の業界を作り上げるスタートとなります。


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