国立公園にLNTを

「LNTを全ての自然公園に」これはLNTJの大切なゴールの一つですが、このゴールの本丸はなんと言っても国立公園ですよね。実は、環境省とこのゴールに向けて情報交換を開始しており、その資料としてアメリカの国立公園でおこなわわれたLNT研究のレビューをしたので、皆さんとも共有しますね。


目次

アメリカの国立公園とは
・入園
・ビジターセンター
・看板
・ウェブサイト・SNS
・連携協定
国立公園におけるLNT研究
・ビジターのLNT認知
・州立公園と比較
・LNTトレーナーコースの効果
・LNT行動の予測要因
まとめ


アメリカの国立公園とは

日本の国立公園は、国有地、公有地、私有地が入り混じっていることで知られていますが、アメリカの国立公園は、完全なる連邦政府の国有地で、国立公園局が土地、システムを管理しています。入園のためには、入園料が必要で、その際にもらうリーフレットに、100%LNTが掲載されています。また、トレイルに入るためには入山許可も必要となり、そこにもLNTが示されています。ですので、国立公園を訪れる人は100%LNTを目にするということですね。

また、さすがにリーフレットを全員が見るわけではないかもしれませんが、日本ではイメージがつきにくいのですが、たいていの人は、最新の情報を収集するためにまずはビジターセンターに立ち寄り、そこでは、LNTのディスプレイや、無料のレンジャープログラムでLNTを学べる機会もあります。

示されていてリーフレットも見ない、ビジターセンターに行かないという人でも、トレイルを歩けば、至るとこに看板や、キャンプグランドの受付、ベアコンテナなどにもLNTの情報が示されていて、もうあって当たり前って感じです。

また、ウェイブサイトや、国立公園局のSNSでもLNTが紹介されており、事前にLNTを理解してから国立公園に旅行に行けるのがいいですね。

そもそもなんでこんなにLNTが国立公園に浸透しているかというと、国立公園をはじめとする、森林局、土地管理局、魚類野生動物保護局、国防省(陸水を管理)の、いわゆる国有地管理5団体が、LNTを、国有地でのアウトドアレクリエーションのためにLNTの教育、普及をしましょうねという覚書を交わしことによります。その後、2008年には、州立公園(日本の国定公園みたない感じ?)とも連携協定を交わし、国有地、州有地のナショナルスタンダードになっています。

その前に遡れば、LNTは国立森林公園や、国立公園で生まれたアイディアですので、連携して当たり前といえば当たり前ですよね。このように、アメリカの国立公園では、LNTはあって当たりまえ、存在になっています。


国立公園におけるLNT研究

そんな歴史と国立公園との強い関係性のあるのLNTですが、どのような研究が行われているのでしょうか?

Vagias, W. M., & Powell, R. B. (2010). Backcountry Visitors Leave No Trace Attitudes., International Journal of Wilderness, 16(3), 21-27.

これは国立公園のビジターのLNTのテクニックに関する調整ですが、そのデモグラフィックデータとして、90%以上の人がLNTを知っていて、大切だと思い、環境負荷の軽減に役に立つと思っていることがわかりますね。インバウンドが戻ってきたら、日本人との比較をしてみたいものですね。きっと悲惨な結果になるはず。ちなみにGNPはグレイシャー(氷河)国立公園、ONPはオリンピック国立公園、CINSはカーバーランド国立海岸です。

Cassandra Lee Backman, Jerry J. Vaske, Ben Lawhon, Wade M. Vagias, Peter Newman, Evan Coulson and B. Derrick Taff. (2018) Visitors’ Views of Leave No Trace Principles across a National Park, a National Forest, and Three State Parks. Journal of Park and Recreation Administration Vol. 36, pp. 41–54

これは国立公園NP、国立森林公園NF、州立公園SPのビジターのLNTの態度の比較です。LNTを大切だと思ったり、やるのが難しいと感じたいり、自分でできていると感じてる態度に差はありませんでしたが、行動しようと思う行動意思は国立公園が高いのがわかりました。確かに日本では、地方や国定公園にいくと、情報の発信が少なかったり、ビジターの行動もフリーダム感がありますよね(私も栗駒にはNo Plan and Prepare)。国立公園は確かに希少価値はあるものの、それ以外の公園にも、いやいや自然公園としてゾーニングされていない自然でも、自然は自然ですので、全ての場所でLNTを行動に起こしたいものです。この点、アメリカはゾーニングされているとLNT完璧ですが、人の土地だとあまり気にしていいない様子。一方、都市から里山、里山から奥山と自然の中にあまりボーダーライン感のない日本では、その分都市の価値観を山に持ち込んでしまうマイナス面もありますが、全ての土地でLNTをという倫理観も持ちやすいかもしれません。

Melissa L. Daniels and Jeffrey L. Marion.(2005). Communicating Leave No Trace Ethics and Practices: Efficacy of Two-Day Trainer Courses., Journal of Park and Recreation Administration 23-14, pp. 1-19

こちらはすっかりおなじみLNTトレーナーコースの効果測定です。対象は野外指導者ですので、ある程度意識高い系の方も、LNTトレーナーコースで、LNTの知識、環境倫理、行動意思が高まり、維持されることがわかりました。LNTトレーナーコースは、倫理だけではなく、科学的根拠に基づいた、具体的な環境配慮テクニックを学びます。この後の研究や、態度理論からも、具体的な効果の理解や、知識があった方が、態度変容することがわかっています。わが国の意識高い系の野外指導者の皆さんもLNTコースで、その態度に、確かなエビデンスを加え、確固たる信念に変わって欲しいものです。

Ben Lawhon, Peter Newman, Derrick Taff, Jerry Vaske, Wade Vagias, Steve Lawson, and  Christopher Monz. (2013)Factors Influencing Behavioral Intentions for Leave No Trace Behavior in National Parks, Journal of Interpretation Research. 18(1), pp.23-38

James B. Lawhan (2013) Influencing Leave No Trace Behavioral Intention Frontcopuntry Visitors to National and State Park., Mater Thesis, Colorado State University.

こちらは、ほぼ同じ研究のパラダイムなので連続して。前者のファーストオーサーはLNTセンターの教育ディレクターですね。論文出すなんてすごいですね。日本の協会にこういうスタッフいますかね。LNTJもがんばろ。後者はコロラド大学の修論です。ベンとファミリーネームが一緒?親子?2月にいくので聞いてみよ。

2つの研究を合わせると、LNTがダメージの低減に効果があると認知している人、後者の研究からはそれに加えて、難しいと思っていない人の方が、LNTの行動意思が高いということです。LNTコースでも強調していますが、「なぜ」という視点と、「簡単」と感じるテクニックは、行動を起こす上でとても大切なのですね。


まとめ

以前のブログで「LNTの本質を理解するためにはバックカントリーにいこう」という記事を書きました。

国立公園の旅行は、ビジターがバックカントリーに触れる大きな可能性を持っています。これまでのマスツーリズム型の観光では、風光明媚な場所にバスで行って、美味しいものを食べて、お土産を買ってという、国立公園といえどもフロントカントリーで行われていました。一方、現在環境省が進めているアクティビティ体験型の国立公園満喫プロジェクトでは、アウトド経験のない人でも安心して、バックカントリーで自然体験することができます。

今後、ますますLNTの必要性や、LNTを理解したガイドの必要性を高めていかなければなりませんね。


ご興味のある方はぜひ無料のメルマガにご登録ください

Leave No traceについて詳しく知りたい方は、アウトドアリーダー・デジタルハンドブックを参考にしてください。

本格的にLeave No Traceを勉強し、指導者を目指したい方は、Leave No Trace Japanのサイトをご覧ください。

backcountry classroom Incが提供するオンラインサロン「Be Outdoor Professional」では、みなさんの野外の実践、指導者養成、研究に関するお悩みを解決します。また、日本全国の野外指導者と情報を共有し、プロフェッショナルなネットワークづくりをお手伝いします。1ヶ月間お試し無料ですので、ぜひサイトを訪ねて見てください。