NOLS的野外指導語呂合わせ

LNTJ第1章の締めくくりとなる、インストラクタートレーニングコースの参加条件を満たすために、2022年12月にマスターエデュケーターコースを開催しました。このコースはもともと台湾のグアンにお願いしていましたが、コロナによる出国規制で一度はキャンセルになりかけましたが、2013年のマスターエデュケーター赤城コースでアシスタントインストラクターをしてくれた、ベンジャミン・ラッシュこと、通称ベンと運よく連絡が再開する機会があり、こちらの事情を理解してもらい、なんとか開催に漕ぎ着けたコースです。

ベンのバックグランドは、オールラウンドなグアンと違い、ザッツNOLS(ノルズ)。世界で最も成功している野外指導者養成学校と言いても過言ではないNational Outdoor Leadership Schoolです。LNTは実は、NOLSによってカリキュラム化された背景があり、NOLSのインストラクターになれば、NOLSの主催としてマスターエデュケーターコースが開催できます。

私自身も、5日間の短期のマスターエデュケーターコースとはいえ、NOLSのコースを経験するのは初めてで、とても楽しみにしていました。そして、その期待を裏切らない、NOLSで培われた、野外指導理論と、ベンのプロフェッショナリズムを、相方として、心から楽しむことができました。

今回は、新しくインプットされた、野外指導における語呂合わせを紹介します。


目次

ティーチングのABCs
パッキングのABCs
トイレの10Ds
焚き火の4Ds
リーダーシップの4:7:1


ティーチングのABCs

こちらは、ティーチングにおける教育原理を表したものです。WEAでお馴染みのSPECは、Student-Centered(生徒中心)、Problem-Based(課題解決)、Experiential(体験的)、Collaborative(協働的)ですが、こちらはABCDEFです。SPECに慣れたWEAメンバーのティーチングに対して、もっと教師が伝える時間や量を増やせいとフィードバックを受けていましたが、確かにPとCの概念がないようです。

Audience:こちらも最初は生徒中心ですね。特に生徒の成熟レベルに合わせるニュアンスが強いです。Student-Centeredに含まれる「知る必要性(動機付け)」の意味合いは他の項目に含まれす。

Break it up:こちらはSPECにはない発想ですが、ティーチングをいくつかのモジュールに分けるということです。単純な例で言えば導入、本体、まとまなど。それぞれの内容も、同じティーチングスタイルではなく、レクチャー、デモ、シミュレーションなど多様なスタイルを使います。

Confucius:アメリカの団体なのにこれは意外。この単語は「孔子」を表し、子曰く「聞いたことは忘れる、見たことは覚える、やったことはわかる」と説明がありましたが、これ「荀子」なんですよね。「論語」を調べましたけど、「learning by doing」に関するようなものは見当たりませんでした。いずれにせよ、Experientialの重要性ということです。

Discovery:「発見」。つまり学習により新たな気づき、学び、成長があったかどうかということです。SPECではStudent-Centeredに含まれる概念ですかね。ベンは「あは体験」の重要性を強調していました。教師は生徒のあは体験を常に求めると。

Evaluate :直訳すると評価ですが、フィードバックのことです。これはティーチングの内容というより、ティーチングをより良くするためのプロセスのような気もしますが、よりよりティーチングにはフィードバックを受けることの重要性の表れかと。

Fun:言わずとしれた「楽しさ」です。これもStudent-Centeredに含まれる概念ですが、楽しさは、生徒を学習へと内発的に動機付け、学習効果を高めます。


パッキングのABCs

パッキングは、経験のある人と、ない人では本当に差がありますよね。以下のパッキング原理は、経験者なら本当にみんなやってることです。ちなみにWEA?BC?では、BSC、バランス、システム、コンビニエンスで指導しています。全ての当てはまっているのが気持ちいいですね。

Access:こちらは取り出しやすさです。BSCでは、コンビニエンスのコンセプトです。レインコート、行動食、水などは、すぐに出せるところにパッキングしましょうという概念です。

Balance:こちらは、BSCでもバランス。上重下軽、内重外軽、左右均等は全く同じ原理です。これだけで、登山の疲労が全く違うのが、パッキングの奥深さですね。

Compression:圧縮という意味ですが、システム&コンビニエンスの概念でしょうか?パッキングは、いくつかのコンポーネントで成り立っていますが、それぞれをしっかり圧縮しましょうという概念です。また、バックパックの空いた隙間にできる限り装備を詰めます。ただ、私は大体パッキングのシステムが出来上がっているので、無理に隙間に何にかを詰めることはないですし、そもそも無駄なすきまはできません。

Dry:濡らしてはいけないものは、絶対濡らさないは、コンビニエンスに含まれる概念です。寝袋、衣類、精密機器などは、濡れにより、使い物にならなくなります。それぞれの装備にあった防水方法を考えましょう。

Everything inside:なんかなんちゃってキャンパーとか、バックパックの外に、カップ、ボトル、マットなど、ガチャガチャつけまくっていますよね。それは、バランスを崩す原因にもなるし、最悪の場合装備をロスすることもあります。装備は全てバックパックの中に収めましょう。

Fuel:燃料?なんでそれがバックパッキングの原理に?実はアメリカでは燃料のほとんどが白ガス。つまりガソリンです。カートリッジが99%にはイメージがつきませんが、万が一ガソリンがバックパックの中で漏れたらジエンドです。ボトルを縦に入れる、もし漏れても他の装備にダメージを与えない場所にパッキングするなどがこのコンセプトです。コンビニエンスに含まれる概念です。


トイレの10Ds

10かあ。しかも聞き慣れない英単語も。ここまでくると、日本人には10Dを覚えるより、トレイのやり方を覚えた方が楽かもいですね。まあ、話のネタに覚えておいてください。

Deuteronomy:ググると「申命記」と出てきて、旧約聖書の一書とのことでした。モーゼがモアブの荒野(ウィルダネス)で民に言った説話がまとめられており、その一節に、「便は穴を掘って埋め、キャンプサイトを神聖な場所に保つ」とあります。紀元前もやっぱり便は神聖なものではなかったのですね。

Desire:必要性。日本人は排便というと、どうしても恥ずかしいものという印象がありますよね。さらにオープンエアーの野外のトイレは、さらに排便に対してプレッシャーを感じさせます。排便は生理現象ですので我慢してはいけません。この偏見とプレッシャーを少しでも解消するために、山のトイレをゲーム感覚で学んだり、ユーモアにする指導を行います。

Device:道具。この後の説明になりますが、キャットホールは20cmですよね。この深さを掘るために、シャベル以外の道具はありません。枝で掘る?石で掘る?掘れるはずがありません。シャベルを持っていない野外指導者は、間違いなく誤った排便をしています。良い野外指導者の目安として「シャベル持っている?」を確認してみましょう。

Distance:距離。こちらはLNTでお馴染みの60m。「なんで?」っていつも聞かれる距離ですが、これは、グランドキャニオンのような環境で60m離れればその先に影響はないというエビデンスから。日本の土壌はそれよりもはるかに分解力、浄化力があるので、もっと近くても良いのではとよく聞かれますが、「ではどのぐらいなら大丈夫だと思いますか?」と聞くと当然沈黙です。つまりその根拠がないし、土壌の状態ごとに距離を覚えるのなんて不可能ですので、「60m離れておけば大丈夫」というのが正しい解釈です。

Dig:掘る。こちらは分解の促進という理由と、ソーシャルインパクを無くすという目的です。分解力の低い高地では、気候や太陽光によって分解させるためにあえて岩の上にすると言われていますが、これは人がほとんどこない場所でのこと。日本ではそんなところはありません。岩で隠すなんて、一番分解されないやり方です。

Depth:深さ。こちらもお馴染み20cm。この深さは、分解を促進するための黒土の中というより、動物による掘り返しを防ぐため。もし20cm掘ったら赤土が出てしまっても、周囲の黒土と攪拌して分解を促進しましょう。

Defecate:排便。これだけは、やり慣れた行為ですね。私の場合、山だと炭水化物が多くなり、お酒も飲まないので、めちゃくちゃキレイなウンチが出ます。ウンチのキレがいいと、必然的にその後の処理も、とても楽。処理したトイレットペーパーの汚れも最小限に。やっぱりLNTは健康な生活からですね。

Decompose:分解。土壌は、落ち葉が物理的に分解される腐食層。落ち葉から土に生物的に分解される有機層(黒土)。有機物が分解され尽くして残った無機質のミネラル層(赤土)。便の分解は生物的に行われるので、黒土と弁を、枝を使って攪拌することでさらに分解を促進します。

Disguise:変装。終わったら、掘った土をキャットホールに戻し、周囲の落ち葉をかぶせ、何もなかったように隠します。ただお勧めは、攪拌した枝をそのまま刺して、落ち葉を被せることで、そこで誰かがトイレをしたことを次の人にアピールする役割があります。トイレをしたくなる場所は、みんな一緒なので、次の人に「ガーンッ」という思いをさせないために。

Disinfect:消毒。こちらも日本人が苦手なところですかね。山家はまだまだカトラリーを舐めて片付けたり、共有する文化ですので。また、そもそも短期の山行では、感染が問題となる前に、下山してしまうのかも。遠征教育とも言われるNOLS、WEAの教育方法では、病気による下山は致命的。水の大切な山では、携帯用の消毒液があると良いかもしれません。


焚き火の薪の5Ds

焚き火の薪に関する4Dです。LNTのサイトにもありましたので、参考にしてください。BCのブログにも「焚き火のやり方」があるので、より詳しく知りたい方はどうぞ。

Dead:枯れた枝を使いましょう。そもそも生木はなかなか火がつきません。たとえ枯れた木でも、まだ立っている木は使わないようにしましょう。多くの昆虫や鳥類などの生態系の一部となっています。

Dry:乾いた枝を使いましょう。折った時にパキッていう乾いた音がするのが、使える薪の基準です。表面が雨で濡れている薪も、中は乾いているので、パキッていったら薪として使えます。火がつきにくい時は、濡れた樹皮をナイフで削ると燃えやすくなります。

Down:落ちている枝を使いましょう。たとえ枯れていても、まだ生えている枝を折らないようにしましょう。落ちているからといって、大きな落枝は、時として野生動物の棲家となっていることがあるので、できる限り小さい枝を拾うようにしましょう。

Dinky:こちらは細かいという意味ですが、細い枝を使いましょうということです。LNTでは手首よりも細い薪が基準ですが、その太さだと、燃え尽きるのにまあまあ時間がかかります。BCの基準は、コッパが楊枝、火付けが割り箸、薪が指の太さです。これで十分火力が得られますし、マウンドファイヤーをやる場合には、手首の太さの薪はちと使いにくいです。

Distant:焚き火も60m?いやいや60mは、汚染が心配されるインパクトで焚き火は関係ありません。これは薪をできるだけ離れた場所から拾ってきましょうという考え方です。キャンプサイトの周りで薪を拾うと、すぐになくなってしまい、次の人が結局、生えてる枝を折ったりと、インパクトの高い方法を誘発するということです。近場でちまちま探すのより、ガサガサって入って、ドカッてとってきた方が結局は楽ですよ。


まとめ

日本にも調味料の「さしすせそ」、結婚相手の「3高」、ビジネスの「報連相」などはありますが、アルファベットという言語が、略語や語呂合わせを劇的に作りやすくしていますよね。さらに、日本の山文化、キャンプ文化は我流が多いので、なかなか普遍的な原則が生成されにくいのも、日本の野外指導者に馴染みの語呂合わせがない要因かもしれません。今回紹介した語呂合わせ以外にも、WEAのハンドブック「Outdoor Leader Digital Handbook」にはたくさん紹介されていますので参考にしてください。

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