はじめに
パーソナルキットは、主に個人的に野外に出かける人や、グループ遠征で個人のケアキットととして適しています。統計的にも、野外運動での事故発生率は低く、命に関わるような傷病は希です。ほとんどの外傷は、切り傷や靴擦れなど軽度のものです。脱水、熱疲労、日焼け、寒さなどはよくあることですが、簡単に予防と処置ができます。野外旅行者は、基本的には健康なので、疾病も最小限であり、一般的な頭痛や腹痛に備えれば十分です。長期の遠征では不衛生が原因になり感染症の可能性があります。つまり、どこに行くか、何をするかに関わらず、軽度の創、靴擦れ、痛み、感染に対する備えが最低限必要になります。一方で、もしスズメバチ、ヒアリなどのいる可能性が高ければ、急性アレルギー反応に備える必要があります。
使用上の注意
・以下に紹介する器具の使用方法とその責任を理解するためには、少なくともWFAコース、野外指導者はWFRコースを受講すべきであり、野外救急ハンドブックに従うことが重要です。
・何をもっていって、どのようにパッケージするかは、ガイドラインを参考にしてください。
・すべての薬(処方薬、市販薬、ハーブ薬)は医師または薬剤師の指導が必要です。
・緊急時の計画を立て、通信手段のために携帯電話、衛星電話を携行してください。
表層の創
感染の予防と治癒の促進のために創を洗浄、保護、固定する装備が必要です。
・シリンジで創を洗浄します。流水よりもより簡単で効果的です。シリンジの大きさは個人の好みとキットバックの大きさによります。一般的に大きい方が効果的ですが、その分重さとサイズが増えます。創を洗浄する前に、創への細菌の侵入を防ぐために、創の周辺の皮膚を洗浄し、ポピドン溶液で殺菌します。ピンセットや鉗子で小さなゴミや壊死した組織を取り除きます。
・ロールガーゼ(国内では手に入りにくいので滅菌ガーゼで代用可能)、ベンゾイン、ワセリンで創の保護をし、メディカルテープや伸縮包帯で固定します。洗浄した後に、創の周りにベンゾインを塗り、裏側にワセリンを塗ったガーゼで創を保護します。その後、ガーゼをメディカルテープや包帯で固定します。創が小さい場合バンドエイドでも可能です。
・清潔な浅い創は、傷跡を残さず、治癒を促進するためにステリストリップでふさぎます。特に創跡を残したくない顔には有効です。ベンゾインはステリストリップをはがれにくくします。深くてハイリスクの創は決して閉じてはいけません。
・雨やパドリングなどで濡れる可能性がある創は、創用フィルムを用います。創用フィルムは防水性かつ通気性があり、創の治癒を直接観察することができます。創用フィルムの大きさにベンゾインを塗り、創に直接、ステリストリップ、ガーゼの上に貼ります。
靴擦れ
靴擦れは、ハイカーだけでなく、多くのスポーツ選手にも起こりますが、簡単に予防し処置することができます。最も効果的なものは、専用の靴擦れパッドを靴につけ、1週間ほどで交換します。もし、いつも靴擦れが起こる場所があるのであれば、予め靴擦れパッドをつけておきます。もしホットスポット(熱感)を感じたら、活動を止めて早めに靴擦れパッドをつけます。もし処置をおこたり水疱ができてしまったら、水疱をつぶして靴擦れパッドで保護します。
全身アレルギー反応
アナフィラキシーとして知られる全身アレルギー反応は、予期できず、希ではあるが、すぐに命の危険につながる。スズメバチ、ヒアリなどに刺されることが一般的な理由であり、食物、薬などが原因になることもある。S/Sxを一時的に取り除くエピネフィリンの筋肉注射のみにより処置ができる。その後アレルギー反応を抑える抗ヒスタミンを与える。
一般的な痛み
筋肉痛から頭痛まで、一般的な痛みは、イブプロフェンやナプロキセンなどの痛み止めで処置できる。いずれも市販薬で、ほとんどの薬局で手に入れることができる。
パーソナルキットの内容
以上の傷病を考えたら、それを処置するために以下の薬品、装備が必要となります。以下の装備のみであれば、パーソナルキットバックでちょうど収まります。より多くの薬品、装備を持っていく場合には、ガイドキットバック、エクスペディションキットバックが必要になります。
薬品ケース
- エピネフィリン(処方薬):自動注射器(エピペン)もしくは、アンプルかバイアルと注射器1cc。内側のチャック付きポケットに収納します。使用には医師の指示とトレーニングが必要です。
- 抗ヒスタミン剤25mg(市販薬):アレルギー反応によるかゆみや、全身アレルギー反応に対するエピネフィリン投与後に用います。1/2−1/4オンスのナルゲンボトルに入れ取り外し式ストラップに収納します。
- 抗炎症剤10mg-20mg(処方薬):全身アレルギー反応に対するエピネフィリン投与後の二相性炎症反応の予防に用います。特に8時間以上の避難のときに、抗ヒスタミン剤と併用して用います。使用には医師の指示が必要です。1/2−1/4オンスのナルゲンボトルに入れ取り外し式ストラップに収納します。
- 一般的な痛み止め200mg(市販薬):一般的な痛みの緩和に使います。1/2−1/4オンスのナルゲンボトルに入れ取り外し式ストラップに収納します。
- フェナゾピリジン100mg(市販薬):女性の尿路感染症に用います。フェナゾピリジンは感染自体を処置するわけではなく、避難中の痛みを軽減します。1/2−1/4オンスのナルゲンボトルに入れ取り外し式ストラップに収納します。
- 舌禍アスピリン錠81mg(市販薬):予期せぬ心筋梗塞に用います。1/2−1/4オンスのナルゲンボトルに入れ取り外し式ストラップに収納します。
- 緊急のオピオイド系鎮痛剤(処方薬):1/2−1/4オンスのナルゲンボトルに入れます。
- ワセリン軟膏もしくは抗生軟膏(市販薬):創の保護と治癒を促進します。1/4オンスのナルゲンボトルに入れ取り外し式ストラップに収納します。
- アロエ軟膏(市販薬):日焼けに使います。1/2-1オンスのナルゲンボトルに入れ取り外し式ストラップに収納します。
創の処置ための装備
- 医療用小ばさみ:ガーゼ、テープ、フィルムなどをカットします。内側のオープンポケットに収納します。
- 鉗子:創の処置に使います。内側のオープンポケットに収納します。
- ピンセット:創の小さなゴミをとるのに使います。内側のオープンポケットに収納します。
- シリンジ12cc:創の洗浄に使います。ストラップに収納します。
- 滅菌ガーゼ:ベンゾインやポピドンをつけるときに用います。内側のオープンポケットに収納します。
- ベンゾイン:テープが皮膚に密着するのを助けます。1/2オンスのナルゲンボトルに入れ取り外し式ストラップに収納します。
- 10%ポピドン溶液:創の消毒に使います。1/2-1オンスのナルゲンボトルに入れ取り外し式ストラップに収納します。
- ロールガーゼ:創の洗浄と保護に使います。50mlのナルゲンコンテナに入れ取り外し式ストラップに収納します。
- 靴擦れパッド:靴擦れの予防、保護に使います。靴の内側につけるものと、患部の皮膚につけるものがあります。内側のオープンポケットに収納します。
- メディカルテープ:創のバンテージに使います。内側のオープンポケットに収納します。
- 創用フィルム:創の保護に使います。内側のオープンポケットに折らずに収納します。
- ステリストラップ:浅く清潔な創を閉じるのに使います。内側のオープンポケットに収納します。
- メス:創の処置に使います。ハンドルがない方がコンパクトです。内側のオープンポケットに収納します。
その他の装備
選択装備(追加購入できます)
- 体温計:体温を測定します。背後のポケットに収納します。
- 液体石けん:処置をする手や、傷病者の皮膚を洗います。1/4オンスのナルゲンボトルに入れ取り外し式ストラップに収納します。
- 鼻血用タンポン:コットン、ガーゼでも代用可能です。内側のオープンポケットに収納します。
- ブランケットピン:スプリントで用います。内側のチャック付きポケットに収納します。
- 傾向補水剤:高温状況下での脱水症の処置に使います。内側のオープンポケットに収納します。
- ウルシオールクリーナー(市販薬):ウルシ等による接触性アレルギーに用います。
- 歯の処置:もし歯が折れたり(特にパドリングなど)、詰めものや被せものがとれることが予測されるのであれば。
- SAMスプリント:四肢の安定したケガ、不安定なケガに用います。但し、SAMスプリントは簡易キットバックには大きすぎ入りません。もし持っていくのであれば、基本キット、遠征キットを検討してください。
- くるぶしパッド:もしSAMスプリントを用いて足首の安定した固定を考えるのであえば、腫れを抑え、患部を保護します。
- 外傷用ハサミ:洋服を切ったり、SAMスプリントを切ったりするために必要です。もし持っていくのであれば、基本キット、遠征キットを検討してください。
より詳しく知るためには少なくともWFAコース、野外指導者はWFRコースを受講してください。野外で正確な処置をするためには野外救急ハンドブックに従い、SOAPノートに記録してください。